2024.11.13
スポニチアネックス
【マイルCS】オオバンブルマイでファンに万馬券を!オーナーに賞金を!吉村師のあふれる思い
秋G1シリーズの水曜企画「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけ本音に迫る。秋のマイル王決定戦「第41回マイルチャンピオンシップ」は大阪本社の穴党オサムが担当。昨秋、オーストラリアの超高額賞金レース「ゴールデンイーグル」で世界に名をとどろかせたオオバンブルマイを管理する吉村圭司調教師(52)に同馬の“ここが凄い!!”を語ってもらった。下馬評は伏兵的扱いだが激走、戴冠もありだろう。
【天性の大駆けタイプ】
名は体を表す。北海道新ひだか町のサンデーヒルズで誕生した、小柄なディスクリートキャット産駒が「オオバンブルマイ(大盤振る舞い)」と名付けられた瞬間から運命の歯車が動き始めた。吉村師が出合いを振り返る。
「オーナー(岡浩二氏)から小柄な馬だけどやってくれないかという話をもらいました。北海道で1歳の時に初めて見て、その時も小さかったけど、このサイズの馬ならいるなと。(馬体重は)420~430キロぐらいにはなると思い、やらせてくださいと。早くからいけそうでしたからね」
馬体にインパクトはなかったが調教を積むごとに動きの良さ、気持ちの強さを感じるようになった。初勝利を飾った新馬戦は414キロ。小柄な見た目が嫌われたのか、14頭立ての5番人気。続く京王杯2歳Sも陣営の意に反し10番人気だった。が、好位付けから直線力強く抜け出し完勝。単勝5100円、3連単は222万円超の大波乱。穴党にとって、まさに万馬券の大盤振る舞い。重賞2勝目を挙げた3歳初戦のアーリントンCも5番人気だった。
「この馬の良さは、いい意味での気の強さがあり、競馬も上手。乗りやすい。馬混みも苦にしない。なぜか、いつも人気がないのが面白いね」
山椒(さんしょう)は小粒でぴりりと刺激的。常に人気とは無縁の大駆けタイプだ。
【高い適応能力】
強さの一つに適応能力の高さが挙げられる。初重賞Vとなった2歳秋の京王杯2歳Sは栗東から東京までの長距離輸送を克服し8キロ増の馬体で出走。重賞2勝目のアーリントンCは小柄ながら重馬場を克服。対応力、適性能力の高さが同年秋の豪州遠征を決意させた。
「日本から1頭での輸送になるのは分かってましたが、この馬なら大丈夫だと。ムダなことをしないし、手がかからない。それも行こうと思った理由です」
継続騎乗で挑む予定だったゴールデンイーグル。が、前週に武豊が東京競馬場で負傷し乗り替わりになる緊急事態。「連絡を受けた時は厳しいな、逆風だと思いました」。吉村師は振り返るが、心配もどこ吹く風。オオバンブルマイは後方からイン強襲という離れ業。地元の1100勝騎手ジョシュア・パーの判断、導きも素晴らしかったが持ち前の勝負強さが際立った。
【“逆襲”望むところ】
初めての6F戦となったキーンランドCで3着に食い込む力走を見せたが、前走のスプリンターズSは展開不向きで11着。前走2桁着順からの戴冠となれば01年ゼンノエルシド(スプリンターズS10着)以来になる。指揮官は手応えありだ。
「状態もいいし面白いメンバー。一撃あっていいと思います。ゴールデンイーグルは格付けがないし、何とかG1を勝たせたいとの思いでやっています。そうなれば種牡馬のオファーもあるかもしれませんから」
ベスト距離はもちろん7F~マイル。距離延長は間違いなくプラスになる。勝負強さが問われる大一番で大駆けホースの本領発揮か。信じた人間に再び、万馬券の大盤振る舞いだ。
《豪州遠征で岡オーナー大盤振る舞い》ゴールデンイーグル制覇で世界に名をとどろかせたが、チャレンジに踏み切れたのはオーナー岡浩二氏の“大盤振る舞い”があった。遠征は招待ではなく空輸費用から滞在費、諸費用全てが自腹。レース創設当時から日本馬へのオファーは度々あったというが、金銭面の理由で二の足を踏む日本馬が多かった。吉村師は「オーナーに“こんなレースがあるんですが”と話をしたら、“よし行こう”と即決でした」と感謝する。岡浩二オーナーといえば、所有馬への愛あふれるネーミングでも知られる。21年のエリザベス女王杯をアカイイトで勝利。今年はチカッパ(博多弁で“ものすごく”の意味)が北海道スプリントCと東京盃を勝った。オーナーの勢いがオオバンブルマイの背中を押した。
◆ゴールデンイーグル オーストラリアのシドニー郊外にあるローズヒルガーデンズ競馬場の芝1500メートルで開催。賞金総額1000万豪ドル(約10億円)、1着賞金525万豪ドル(約5億2000万円)。19年にシドニースプリングカーニバルの新たな主要競走として新設、凱旋門賞よりも高額の賞金となっている。南半球産4歳馬、または北半球産3歳馬が出走可能。重賞の格付けはない。
◇吉村 圭司(よしむら・けいじ)1972年(昭47)5月31日生まれ、熊本県出身の52歳。父は荒尾競馬の元調教師。96年JRA競馬学校厩務員課程入学、96年栗東・飯田明弘厩舎で調教助手。04年から池江泰寿厩舎で調教助手を務め、ドリームジャーニーなどの調教に携わった。10年調教師試験に合格、12年厩舎開業。16年エリザベス女王杯(クイーンズリング)でJRA・G1初制覇。JRA通算3119戦283勝、うち重賞10勝。
《取材後記 穴記者“御用達”吉村厩舎》穴記者が最も取材すべき厩舎が吉村だ。今年はここまで19勝を挙げているが1番人気は4頭のみ。5番人気以下での勝利が7頭もいる。とにかく激走が目立つ。直近では9日京都の室町Sを12番人気で勝ったイスラアネーロ。一見単なる“大駆け”に思えるが、そこにはトレーナーのレース選択の確かさ、仕上げのうまさがある。吉村厩舎の激走には常に理由があるのだ。今年も年末までビッシリ追い続けたい。 (オサム)