2024.08.16

スポニチアネックス

19歳オウケンブルースリ ボテッと動かないおじさん、コラボパンで人気再然

 ◇田井秀一の優駿を訪ねて(2)

うらかわ優駿ビレッジAERUで余生を送るオウケンブルースリ

 東京本社の“馬体派記者”田井秀一(31)が、かつてターフを沸かせた引退名馬の近況を取材する夏の連載企画「田井秀一の優駿を訪ねて」(全4回)。第2回は「アチョーくん」ことオウケンブルースリ(牡19、父ジャングルポケット)。08年菊花賞馬は余生を過ごすうらかわ優駿ビレッジAERU(北海道浦河町)でもすっかり人気者だ。

 アチョーくんは動かない。19歳になったオウケンブルースリは一般の観光客も間近で見学できるAERUの放牧地で黙々と牧草をはんでいた。「無感情、無関心で、普段は生気が感じられません。ボテッと動かなくておじさんくさいし、素軽さがみじんもなくて。よくこれでG1を勝てたな、と思います」。アチョーくんの愛称で親しまれる同馬のキャラクターを、乗馬課マネジャーの太田篤志さんが苦笑を交えて解説する。

 馬名9文字制限に収まりきらない斬新なネーミング。未勝利戦での最終コーナー逸走から“画面外”の追い込み。デビューから184日目での菊花賞勝利(当時の最短記録)。そんな型破りな競走生活から、ブルース・リーばりの蹴りを繰り出すような活発な姿をイメージしていたが、「アチョー!アチョー!しません。近寄ってきたアブを追い払う時に渋々キックするぐらいで(笑い)」。同じ放牧地で過ごすスズカフェニックスがやんちゃな分、ブルースリの静閑ぶりがより際立つ。

 だが、見た目は相変わらず華やか。09年ジャパンCでウオッカと2センチ差の大熱戦を演じた鼻先は真っ白なままで、栗毛の大流星は競馬をあまり知らない観光客にも一目で伝わるチャームポイントになっている。

 その派手顔が今夏、一躍注目を集めた。太田さんの発案で地元の老舗菓子屋「手取菓子舗」とコラボしてブルースリの顔に似せたコッペパンを開発。「今年のゴールデンウイークぐらいにお客さんがコンビニのコッペパンと(ブルースリの)顔が似てるって写真を送ってくださって、これは商品化できるんじゃないか、と」。この着想がネット上で大きな反響を呼び、8月上旬に4日間限定で販売。各日とも予定数量が数十分程度で売り切れてしまうほどの人気ぶりで「初めてAERUの売店に行列ができて、(売り切れてからは)ずっと謝りっぱなしでした。250円のパンのために“朝2時に家を出ました”なんて方もいて、魅力的なものを作れば、遠方まで足を運んでいただけるんだなと実感しました」。

 浦河町にあるAERUは、新千歳空港をスタート地点とする旅行者にとっては日高や静内、新冠などの他のサラブレッド観光地より“奥”に位置する。「これまでは人気者のウイニングチケット(昨年2月に老衰死)がいて、今は同じく“ウマ娘”でキャラクターになっているナカヤマフェスタが頑張ってくれていますが、気軽に来られない立地なので、ここにしかない話題をつくらないと勝負になりません」と太田さん。引退競走馬関連事業が広がりを見せている今だからこそ、創意工夫が求められる。SNSでも人気急上昇中のアチョーくんが現在進行形で新たなロールモデルを築き始めている。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の31歳。阪大卒。道営で調教厩務員を務めた経験をもつ。BSイレブン競馬中継解説。netkeiba「好調馬体チョイス」連載中。