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2024.08.14

スポニチアネックス

F1聖地に1100メートル直線坂路 6・1開業外厩施設「社台ファーム鈴鹿」 設備は国内トップレベル

 水曜付夏企画「夏は自由研Q」第7弾は大阪本社の田村達人(31)が担当する。競走馬の生産や育成を手がける社台ファームが6月1日に“F1の聖地”である三重県鈴鹿市に外厩施設「社台ファーム鈴鹿」を開業。直線距離1100メートルを誇る坂路など国内トップレベルの施設に潜入した。

豊かな自然でリラックス効果バツグンの逍遥(しょうよう)馬道

 栗東トレセンから車で約50分。奇麗な空気と自然豊かな三重県鈴鹿市で6月1日、外厩施設「社台ファーム鈴鹿」が開業した。少し山の中に入ったところにあって実に静か。気持ち良すぎるほど風通しが良く、気温は街中と比べて3度ほど低い。競走馬はもちろん、人間にとっても過ごしやすい環境だ。宮城県の山元トレセンで14年勤め、開業と同時に鈴鹿へ移動してきた獣医師の渡辺憲一さんは「土地が大きいので厩舎など施設ごとに広いスペースをつくれるのが利点です。栗東の馬でも鈴鹿で数日過ごすとリラックスしている馬が多いと思います」と自然の効果を実感している。

 7年前から構想計画を立てた。実際に動き始めたのが3、4年前。ゴルフ場の一部を買い取った施設は東京ドーム約4倍の広さ。隣接しているゴルフ場の1番ホールからは調教している様子が見える。取材中も坂路の横で数組がホールを回っている場面に遭遇。少し驚いた。現在、厩舎2棟の計50馬房は全て埋まっている。厩舎内は通常より天井が高く、エアコンやミストなど暑さ対策として考えられるものは全て取り入れた。22年全日本2歳優駿と昨年のUAEダービーを制したデルマソトガケはこの夏を過ごし、栗東トレセンに帰厩した。

 施設一番の自慢は直線距離1100メートルを誇る国内最大級の坂路。噂通り、果てしなく長かった。高低差38メートル、勾配3・5%は栗東トレセン坂路の高低差32メートル、勾配2・6%を上回る。渡辺さんは「カーブのない直線坂路なら左右均等にバランスが取れて、脚元の負担が少ない。かなり故障のリスクが減ります。なかなか、これほど真っすぐな距離を確保できるところはないと思います」と長所を伝えた。時計の自動計測も導入済み。他にも1周800メートルの周回コースや逍遥(しょうよう)馬道など外厩施設でトレセン同等の調教を積むことができる。

 宮城県の山元トレセンは栗東から約750キロで高速道路を使って約10時間かかる。これが鈴鹿なら約50分に短縮される。今回の開業で拠点が一つ増えたことは社台系の関西馬にとって、大きな一歩。さらに調教師などの関係者とも直接コミュニケーションを取れる機会が大幅に増える。今後も段階的に施設を拡大する予定。今年中に厩舎1棟増で75頭。2、3年後には200馬房を計画している。

 今年、上半期のG1は社台ファームが大阪杯(ベラジオオペラ)、NHKマイルC(ジャンタルマンタル)、ヴィクトリアマイル(テンハッピーローズ)、ダービー(ダノンデサイル)を制し、生産者別で最多4勝。外厩施設としても、いいタイミングでスタートを切った。新・社台ファーム時代の到来を予感させる。

 ≪厩舎長・松藤剛さん 大変だけど新鮮≫社台ファーム鈴鹿で働くスタッフは乗り役が12人。馬房掃除など厩舎作業を手伝っている方を含めて20人いる。厩舎長を務める松藤剛さんは愛媛県生まれの36歳。馬とは無縁の家庭で育ったが、小学生の頃にゲーム「ダービースタリオン」で競馬に興味を持った。松藤さんは「テイエムオペラオーあたりの時代から、自宅のテレビでレースを見始めました」と振り返る。週末はレースにくぎ付けとなった。

 高校を卒業した07年、全くの未経験で北海道千歳の社台ファームに入社した。「セレクトセールやツアーなど1年間を通しての牧場の流れが僕には合っていました」。北海道で10年と少し、社台所属馬も利用している栗東近郊のグリーンウッドで2、3年経験を積んだ。そして鈴鹿の開業に合わせて、住まいを移した。

 牧場の朝は早い。夏時間の今は午前5時から厩舎作業がスタート。午前中は最大で4頭の稽古をつける。開業から2カ月半。当然、まだ手探りなところは多々ある。「楽しいより大変なことの方が多いですが、初めてのことばかりで毎日が新鮮です。僕らは無事にトレセンまで送り届けることが一番大事。責任感はありますが、やりがいを感じています」と目を輝かせた。これまで培ったノウハウを生かし、鈴鹿チームで強い馬づくりに励んでいる。