2024.08.07

スポニチアネックス

捉え方さまざま 新潟開催「約3時間の昼休み」

 日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は美浦取材班の高木翔平(34)が担当する。新潟開幕2週で行われた暑熱対策における競走時間の拡大。JRAで初めて設けられた「約3時間半の昼休み」の捉え方は、立場によってまちまちだった。新制度における“功罪”について、関係者の証言も交えて考察する。

長蛇の列ができた新潟競馬場の「パドックウォーク」

 新たな暑熱対策として注目を集めた「競走時間帯の拡大」。先週までの新潟開催4日間は、1Rが通常よりも早い午前9時35分(今週からは午前10時10分、18日のみ同10時)に始まり、最終12Rは日が暮れ始めた午後6時25分(今週からは午後4時30分、18日のみ同4時20分)に行われた。特に気温の高い5R後に設けられた約3時間半の休止時間。ファン、厩舎サイド、騎手、主催者側…立場が違えば、新制度の捉え方もさまざまだった。

 ネガティブな声が漏れ聞こえてきたのは実際に馬を仕上げた厩舎サイド。ある調教助手は「普段ならレースを終えてリラックスしている時間にスイッチを入れて走らなければならない。夏の期間ずっとこのリズムならまだいいけど、3週目からは元に戻るので馬が戸惑わないか」と不満顔。競馬場だとイレ込むタイプの馬が午後6時半まで本番を待つのは厳しいという声もあった。ただ、暑熱対策の一環として装鞍所への集合時間の変更(50分↓40分前)や、パドック周回時間が短縮されたことには好意的な意見が多かった。

 一方、競馬場を訪れたファンは初の試みを楽しんでいるように見えた。ある男性は「ずっとこれでいい。札幌をじっくり見られるし、この後の重賞もしっかり予想できる」と話していた。実際にパドックに入れる「パドックウォーク」には長蛇の列ができ、小さな子供がはしゃいでいる姿もあった。ただ、パドックから出てきたファミリーは「楽しかったけど1回入ったらもういいかな。この後はどうしよう…」と時間を持て余した様子。他にもお笑いライブやミュージックライブなどの催しがあったものの、メインレースまでの時間の使い方に戸惑う声もあった。同時に札幌でレースが行われているだけに調整は難しいが、現地ファンを飽きさせない工夫がもっと必要かもしれない。

 騎手の受け取り方はさまざま。「朝に入れた集中のスイッチがふっと抜けてしまう感じがあった。午後に事故がないようにしたい」と気合を入れ直す騎手も。一方、馬と同じように体力を奪われる真夏の開催だけに「酷暑の中、連続で乗るのはきついが、休みがあることで後半も楽に乗れた」と前向きに捉える声も。真夏は騎乗数を抑える騎手もいるが、昼休みを挟むことで多くのオファーに応えられる恩恵もありそうだ。

 新潟4日間の売得金は前年比112・2%の大幅アップ。多くのファンが時間的な余裕を持って馬券を購入したことが売り上げ増につながった。来年以降の制度継続、拡大はさまざまな結果を踏まえ、これから検討されるとのこと。結果的にはJRAは暑熱対策をしながら売り上げも増やした形だが、現場の声も踏まえ、多くの人が納得する形で制度がブラッシュアップされることを願っている。

 ◇高木 翔平(たかき・しょうへい)1990年(平2)4月29日生まれ、広島県出身の34歳。15年入社で競馬班一筋。23年から東京本社予想を担当。