2024.08.02

スポニチアネックス

若き日の武豊が感じた岡部元騎手の“格好良さ”

 【競馬人生劇場・平松さとし】7月31日、大井競馬場でのトークショーを終えた武豊騎手に、夕食の席に呼んでいただいた。おじさんがそろうとついつい昔話になりがち。この晩も例に漏れず。時節柄、夏のフランス、ドーヴィル開催の話になった。「コロナ前はほぼ毎年行っていたし、楽しい思い出がたくさんあるから頃合いを見てまた行きたいですね」と語るレジェンドに「楽しい思い出」を挙げてもらうと、やはりシーキングザパールの話が出た。日本調教馬として史上初めて海外G1を制したのが、98年にモーリスドゲスト賞に挑んだシーキングザパール。鞍上は若き日の天才ジョッキーだった。

95年3月20日、中山競馬場で行われた岡部騎手引退セレモニーで岡部騎手が乗ったみこしを担ぐ武豊

 その翌週にはタイキシャトルがジャックルマロワ賞(G1)を勝つのだが、こちらの手綱を取ったのは岡部幸雄騎手(引退)。武豊騎手が現れる前の第一人者だが、この名手に話題が飛ぶと、武豊騎手は言った。「自分が若い時は岡部さんの騎乗スタイルをよく見て、まねもさせてもらいました。そして、何よりもあれだけの実績のある人なのに、それを自慢ぶるようなことがなかったのは格好良かったです」。圧倒的な経験と実績を誇る武豊騎手が、それを鼻に掛けるようなことをしないのも、岡部騎手を見てそう感じたからなのかもしれない。

 ちなみにジャックルマロワ賞のレース前には岡部騎手から質問を受けたという。「馬場状態とか、フランスの競馬の流れについて聞かれました。あれだけ実績のあるベテランが、変なプライドに縛られることなく、まだ若かった自分に聞いてきたのは逆に格好良いと思いました」と振り返る。

 その岡部騎手がステッキを置いたのは05年。引退式に駆け付けた武豊騎手が「さまざまな記録を抜いてしまってすみません」と言うと、岡部騎手は次のように答えたという。

 「いえ、豊君に抜かれてうれしかったですよ」

 それを聞いた武豊騎手は「ますます格好良い」と感じたそうだ。(フリーライター)