2025.04.21
スポニチアネックス
【皐月賞】鈴木康弘氏 モレイラがミュージアムマイルの末脚引き出す“マジック”披露
【鈴木康弘 達眼解説】勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしといいます。江戸後期の大名(肥前平戸藩主)で剣術の達人でもあった松浦静山の名言。球界のレジェンド野村克也さんが好んで用いたことでも知られています。

これまで見せたこともない脚で差し切ったミュージアムマイル。勝ちに不思議の勝ちありと思わせる優勝でした。向正面では馬群の中で内外の馬と押しくらまんじゅうを続け、左右に振られます。3角手前ではモレイラの手が動きました。スムーズさを欠いた競馬。それでも直線で外に進路を取ると、素晴らしい末脚で伸びてきた。知者も千慮に一失あり。ゴール前150メートル、クロワデュノールに馬体を並びかけたところで左の手綱を放してしまうシーンもありましたが、造作もなく抜き去った。
「モレイラが乗ると馬が変わる」といわれます。「隠れたギアを引き出す」との評価も耳にします。ミュージアムマイルのパフォーマンスはそんな言葉に説得力を与える。“マジックマン”と呼ばれる名手の面目躍如。勝ちにマジック(不思議)の勝ちありでした。
馬名とは裏腹にマイルよりも中距離向きの体形。各部位のつながりに緩さがある。ダービー2400メートルにも対応できるでしょう。
クロワデュノールの敗因はつかみづらい。向正面で外から馬体をかぶせられて少し手綱を引く場面がありましたが、大きな不利とは言いがたい。押しくらまんじゅうに参加させられたミュージアムマイルに比べれば不利のうちに入りません。それがダメージになったとすれば、かなりデリケートな神経の持ち主なのでしょう。負けに不思議の負けなし(敗戦には必ず敗因がある)。規格外れの競走能力を持った馬の敗因は繊細な気性にあるのかもしれません。(NHK解説者)