2025.04.11

坂井瑠星騎手

先週末、現地時間4月5日に行われたドバイワールドCデー。ダノンデサイル(牡4歳、栗東・安田翔伍厩舎)がドバイシーマクラシック(GⅠ)を制し、ソウルラッシュ(牡7歳、栗東・池江泰寿厩舎)がドバイターフを優勝。また、アンダーカードのUAEダービー(GⅡ)ではアドマイヤデイトナ(牡3歳、美浦・加藤征弘厩舎)が勝利を収めるなど、今年も日本勢が見事な活躍を見せてくれた。
 一方で、メインレースのドバイワールドC(GⅠ)に出走した日本馬4頭は、アメリカ勢のワンツーフィニッシュに屈し、栄冠には届かなかった。中でもJRAプールで単勝1.1倍という圧倒的な支持を受けていたフォーエバーヤング(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)が3着に敗れた場面では、肩を落とす関係者やファンの姿も多く見受けられた。
 しかし、そのレース直後、誰よりもショックを受けていたであろう坂井瑠星騎手の振る舞いには、心を打たれるものがあった。
 脱鞍を終えた鞍を手にジョッキールームへ向かう途中、彼とすれ違った。こちらとしては声をかけるのもはばかられる状況だったが、そんな中、彼の方から「はい、お疲れ様でした!」と声をかけてきた。それは普段と変わらぬ明るい調子で、思わずこちらが驚かされた。そして、その後の姿勢もまた、見事だった。
 スーツに着替えて再び報道陣の前に現れた彼は、冷静にレースを振り返り、こう語った。
 「勝たなければならない馬で勝てず、申し訳なく思っています。レース展開は想定していたものでしたが、他の馬たちのマークが厳しく、今日はポジションをキープするのが精一杯でした」
 本音を言えば、一刻も早くその場から立ち去りたかったはずだ。しかし、彼は報道陣からの矢継ぎ早な質問に、誠実に答え続けた。おそらくその先にいる多くのファンの姿が、彼には見えていたのだろう。
 その姿を見て、ふとある場面が頭をよぎった。
 話は2005年、有馬記念(GⅠ)のレース後に遡る。あのときも、1人のジョッキーが報道陣に囲まれていた。
 武豊騎手である。
 その年、無敗の3冠馬ディープインパクトとともに圧倒的な1番人気でグランプリに挑んだが、ハーツクライに惜しくも敗れて2着に終わった。レース後、後検量を終えた武豊騎手はわざわざ再び報道陣の前に姿を現し、椅子に腰を下ろした。それは「しっかりと質問に答えます」という意思表示であり、実際に1つひとつの質問に丁寧に答えていた。
 そのとき、強く感じたことがあった。
 〝人は、敗れたときの態度にこそ人柄が表れる〟
 武豊騎手が“レジェンド”と呼ばれるのは、単に輝かしい記録を残してきたからではない。こうした振る舞いこそが、彼を真のレジェンドたらしめているのだと思った。
 そして今回の坂井騎手の姿にも、同じような品格を感じた。まだ27歳という若さでありながら、オーナーや師匠である矢作芳人調教師、そしてファンに対し、結果で応えることができなかった無念さは、容易に察することができた。それでもその思いを押し殺し、感情を表に出すことなく対応していた。誰にでもできることではない。
 ファンを常に思い続ける矢作調教師のもとで育ち、若い頃から世界の舞台で経験を積んできたことが、今の彼を形づくっているのだろう。そして、こうした姿勢こそが、彼に多くの支持をもたらすはずだ。
 これからも“リューセイ軍”がさらに勢いを増していくよう、自分もそのひとりとして応援していきたいと思った。
(撮影・文=平松さとし)

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