2025.03.27
佐藤悠太調教師とレッドバロッサ

3月23日の阪神競馬場。第6Rを制したのはカナルビーグルだった。管理するのは佐藤悠太調教師。この3月に開業したばかりの新人トレーナーだ。本人は「まずはほっとしました」と安堵する。
1988年5月生まれで、現在36歳。父は山形県の上山競馬で調教師をしていた茂氏で、祖父も同じく上山で騎手兼調教師を務めていた。物心がついたときには、すでに馬のいる生活が当たり前という環境で育ったという。
「小学5年生くらいのときには、すでに調教師になりたいと思っていました」
しかし、中学3年生のときに上山競馬場が廃止となった。
「最終日、みんなが泣きながら競馬をしている姿を見てショックを受けました」
その日から「競馬文化を残せるような調教師になりたい」と思うようになった。
高校では乗馬クラブに通い、大学では馬術部で毎日馬に乗った。全日本学生選手権で入賞するなど活躍を見せた後、2011年にノーザンファームへ就職。その後、競馬学校に入学したが、当時は卒業後すぐにトレセン入りできず、待機期間があった。その間を利用してアイルランドの厩舎で研修を受け、さらなる経験を積んだ。
帰国後は栗東・田中章博厩舎でキャリアをスタートした。
「自分が調教師を目指していることを田中先生に伝えると、トレセン内での仕事はもちろん、牧場や関係者を紹介してくださるなど、さまざまなサポートをしていただきました」
その後、田中調教師が他界。師匠の期待に応えるためにも、調教師になるという思いはますます強くなった。
2016年には、田中厩舎を引き継いだ寺島良厩舎へと転厩した。新たなボスもまた、田中調教師と同様にサポート態勢を整えてくれた。その成果もあり2023年、7度目の受験で難関を突破。2025年3月、念願の厩舎を開業した。
「上山の魂を継ぎ、活躍馬や注目馬を育て、競馬文化を残せるような調教師になりたいです」
“競馬があるのが当たり前ではない”ことを身をもって知る調教師だからこそ、出てくる言葉だった。
そんな志を胸に迎えた開業初月、3月23日には早くも初勝利をマークした。
「開業11戦目ではありましたが、焦りはありませんでした。厩舎スタッフはみんな一所懸命に頑張ってくれていますし、一つ一つステップアップしていこうと話していました」
そんな希望に満ちた若き調教師が、今週末の3月29日に行われる三木ホースランドパークJSにレッドバロッサを送り込む。音無秀孝厩舎からの転厩馬で、前走の小倉競馬場のオープン競走では3番人気に支持され3着。今回も充分チャンスはありそうだ。
「良い馬を引き継がせていただきました。幸い、担当者は変わっていないので、良い状態を保てていますので、期待に応えられるよう頑張ります」
そう語る佐藤調教師。彼のもとで新たな挑戦を迎えるレッドバロッサの走りに注目したい。
(撮影・文=平松さとし)