2024.10.09

武豊騎手と凱旋門賞

現地時間10月7日、フランスのパリロンシャン競馬場で今年も凱旋門賞(GⅠ)が行われた。
 丁度30年前の1994年、このヨーロッパ最大の1番に初めて騎乗したのが武豊騎手だ。現在はレジェンドと言われる彼も、当時はまだ25歳。それでもデビュー3年目で全国リーディングジョッキーの座に輝く等、日本国内では次々と騎手記録を塗り替えていた。
 「初めての凱旋門賞は今でもよく覚えています」
 1番人気のホワイトマズルに騎乗したが、パドックでは報道陣に囲まれ、調教師との最終的な打ち合わせもままならぬまま、騎乗時間がきてしまった。結果「上手に乗る事が出来ず、人気を裏切ってしまいました」(武豊騎手)。
 そんな若き日の武豊騎手に待っていたのは、ごうごうたる批難の声だった。
 「悔しかったですね」
 だから「そういう批難をされないような騎手になろうと心に誓った」そうだ。
 また、それは「いつか凱旋門賞を勝ちたい」という気持ちがはっきりと、脳のしわに刻み込まれた瞬間でもあった。
 しかし、以来10度の騎乗でもその門扉は簡単には開かなかった。あのディープインパクトをもってしても勝つ事は出来なかった。
 そして、11度目の期待を持って臨んだのが今年だった。
 騎乗したのはアイルランドのジョセフ・オブライエン調教師が管理するアルリファー(牡4歳)。「武豊騎手が凱旋門賞を勝つところをみたい」と常日頃から公言している松島正昭氏が共同オーナーとなる馬だった。
 昨年は、直後に凱旋門賞を勝つエースインパクトと3/4馬身差、今年はあのシティオブトロイを相手に落鉄しながらも1馬身差に迫った。初めての2400メートル戦だった前走のベルリン大賞(GⅠ)では60キロを背負いながら5馬身差の圧勝。充分にチャンスのある馬だと思えた。
 実際、勝負どころまでは「凄く良い感じだった」とレジェンドは振り返った。
 「スタートが今一つで当初の想定より後ろからになってしまったけど、落ち着きがあったし、手応えも悪くなく、運べていました。ただ、これから、というところで怪しくなってしまいました」
 結果、11着。今年もまた競馬の神様はレジェンドに微笑んでくれなかった。
 それでも、武豊騎手は次のように言った。
 「乗っている時は、また凱旋門賞に乗れて幸せだと感じました。まだやめられませんね。来年もまた乗れるように努力を続けます」
 いつか来るその日が、今年ではなかった。ただそれだけの事であると、信じ、これからも応援しよう。
(撮影・文=平松さとし)

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