2024.09.13

ディアドラ欧州遠征

今週末、アイルランドのレパーズタウン競馬場でアイリッシュ・チャンピオンS(GⅠ)が行われる。矢作芳人厩舎のシンエンペラー(牡3歳)が挑戦する事でも話題になっているこのレースで僅差4着に好走した日本馬が、2019年のディアドラ(栗東・橋田満厩舎)だ。
 17年には秋華賞(GⅠ)を制した同馬は、19年、長期にわたる海外遠征を敢行。3月にドバイ(ドバイターフ4着)、4月には香港(クイーンエリザベスⅡ世カップ6着)で走った後、ヨーロッパ入り。イギリスのニューマーケットにあるアビントンプレイス(ニューマーケットでは厩舎に屋号のような名前を付けるのが一般的)と呼ばれる厩舎に入り、イギリスは勿論、アイルランドやフランスを転戦した。
 ヨーロッパ初戦として走ったプリンスオブウェールズS(GⅠ)では6着に敗れたが、続く牝馬限定のナッソーS(GⅠ)を見事に優勝。00年のジュライC(GⅠ)を制したアグネスワールド以来、史上2頭目となる日本調教馬による競馬発祥の地・イギリスでのGⅠ制覇を成し遂げた。
 この遠征に終始同行していたのが込山雄太調教助手だ。当時、橋田厩舎に在籍していた彼はベテランの腕利き調教助手。過去にもアドマイヤコジーン、アドマイヤマックス、アドマイヤメインらと共に海外遠征をしていたように、海の向こうでの経験も豊富だった。しかし、当時、彼は次のように言っていた。
 「確かに沢山行かせていただきました。ただ、なかなか勝つには至りませんでした」
 最大のチャンスと思えたサイレンススズカのアメリカ遠征は、広く知れ渡っているように1998年の天皇賞・秋(GⅠ)での故障により立ち消えてしまった。
 それだけに嬉しい海外初勝利だったわけだが、喜びがひとしおだった理由がもう1つあった。
 「イギリス遠征後、ディアドラが腰を痛めてしまいました」
 慣れない環境での調教に、自分のサジ加減がうまくいかず、腰を痛めたと感じた込山調教助手。責任を感じていた。それだけに、ナッソーSの勝利に、安堵の気持ちがわいたのだ。
 続いて出走したチャンピオンS(GⅠ)は冒頭で記した通り4着だった。しかし、勝負どころでスムーズに捌けず、最後だけ伸びて来るという厳しいレースになりながら、地元の伯楽A・オブライエン調教師が送り込んだ上位3頭からはそう離されなかった。勝ったマジカルとの差は3馬身も開いていなかった。例年、一線級の揃うこのレースだが、中距離戦に強い日本馬なら充分に勝負になると証明した1戦でもあっただろう。
 さて、今年もA・オブライエン調教師はオーギュストロダンやロスアンゼルスといった優駿を出走させるつもりだ。他にも強烈な末脚を武器とするエコノミクス(イギリス、W・ハガス厩舎)も怖い存在で、シンエンペラーにとっては決して楽な戦いにはならないだろう。とはいえ、ディアドラをモノサシに考えても決して大きくヒケを取るとも思えない。現地時間14 日の決戦に注目しよう。
(撮影・文=平松さとし)

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