2024.08.22

WASJとミシェル騎手

今週末、札幌競馬場ではワールドオールスタージョッキーズ(以下、WASJ)が行われる。
 世界中から名騎手が招待され、日本のジョッキー達と指定された4レースに騎乗。着順に応じたポイントで「日本選抜」と「世界選抜」の団体戦、及び個人戦での優勝を争う。夏の札幌開催の名物イベントとしてすっかり定着した感のあるこの企画だが、今から5年前の2019年、日本のファンをとりこにしたのがフランスから招待されたミカエル・ミシェル騎手だ。
南フランス、コート・ダジュール出身の彼女は幼少時から乗馬に興じていた。マルセイユにある競馬学校を卒業した後、騎手免許を取得したのが14年。大怪我をして1年半もの休養を余儀なくされた時期もあったが、17年、フランスで導入された1つの新ルールが彼女を開花させた。
それが女性騎手への減量特典だ。
同年3月から採用されたこの制度で徐々に勝ち星を増やした彼女が大ブレークしたのは翌18年。年頭から勝ちまくると、なんと1月を終えてカーニュ・シュル・メール競馬場でのリーディングジョッキーに輝く。長い歴史を誇る同場でも、女性騎手がタイトルを取るのは史上初の出来事だった。
彼女の勢いはその後もしばらく止まらなかった。3月も終わろうかという時期になっても、当時のトップジョッキーであるC・スミヨン騎手やP・ブドー騎手らを抑えて全国リーディングの座に君臨してみせたのだ。
 当時はまだ来日前という事もあり、日本での知名度は低かったが、フランスでは超有名だったので、この年、かの地へ行った際、競馬場で彼女と言葉をかわした。その席には武豊騎手と彼女のエージェントもいたのだが、私はいずれ日本でも話題になるかと思い、彼女をインタビュー。その間、武豊騎手はエージェントからの相談に答えていた。それが「『ミカエルが日本でも乗りたい』と言っているのだが、どうすれば良いか?」という話だった。
 当時の短期免許の制度では来日が難しいとみた武豊騎手は、WASJへの参加を推奨。「話題性のある女性ジョッキーなので、JRAに呼びかければ招待してくれる可能性はある」とアドバイスを送った。
 結果、これがうまく行った。
 翌19年、WASJに招待されたミシェル騎手は、その可愛らしい美ぼうに加え、勝利した事で一躍、人気者に。本人も異国で経験した自国フランスとは異なるケイバに魅了され「日本に恋しました」と言ったものだから、更に人気に火が点いた。
 帰国後、JRAでの通年免許取得へ向け、日本語を勉強した彼女だが、現在のところ難関突破には至っていない。しかし、まだ日本への夢は諦めていないようで、アメリカやオーストラリアと拠点を変えても、日本語の勉強を続けているそうだ。
 ちなみに当時、武豊騎手が次のように語っていた事も記しておこう。
 「減量があれば誰でも勝てるというわけではありません。彼女が勝てたのは、それなりに良いモノがあるからなのは間違いないでしょう」
 今年はフランスから同じ女性のD・サンチアゴ騎手が来日する。現在45歳で男性顔負けのパワフルジョッキーだ。果たして今年はどんなドラマが待っているのか。JRA最北の競馬場に注目しよう。

(撮影・文=平松さとし)

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