2024.06.13

川島信二元騎手とミエノサクシード

今週末は牝馬の重賞マーメイドS(GⅢ)が行われる。
 今から6年前の2018年、このレースはアンドリエッテ、ワンブレスアウェイの1、2着で決着した。
 しかし、今回紹介するのは彼女達の話ではない。当時、3着だったミエノサクシードのエピソードだ。
 同馬の手綱を取っていたのは川島信二元騎手。1982年11月生まれだから、当時35歳。ミエノサクシードのオーナーは里見美惠子さんだった。「でも……」と川島騎手は言った。
 「でも、本当は佐々木完二オーナーの馬でした」
 デビューを待たずして佐々木完二氏が他界してしまったため、里見美惠子さんが引き継いだのだが、この佐々木氏、実は川島騎手の叔父だった。母の妹のご主人だったのだ。
 「甥っ子に乗せるため……」
 そういって手に入れた馬だったそうだ。
 しかし、その願いはかなわなかった。先述した通り亡くなってしまったのだが、その後、同馬のオーナーとなった里見美惠子さんがその意思を尊重し、川島騎手を乗せたのだった。これが偶然でない事は、馬名からも見てとれる。“サクシード”には「成功する」という他に「継承する」という意味もある。故・佐々木氏の意思を、里見美惠子さんが見事に継承したのである。
 さて、その後の川島騎手とミエノサクシードだが、京都金杯(GⅢ)3着、阪神牝馬S(GⅡ)3着、ヴィクトリアマイル(GⅠ)6着に関屋記念(GⅢ)2着(いずれも19年)等、善戦を繰り返したが、残念ながら重賞を勝つまでには至らなかった。
そして、ミエノサクシードは19年に引退、川島騎手も今春、ターフを去り、現在は庄野靖志厩舎で調教助手となっている。ジョッキー時代にはかなわなかったGⅠ制覇を、今度は厩舎のスタッフとして目指す。亡き叔父さんに大願成就の報告が出来る日が来る事を願おう。
(撮影・文=平松さとし)

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