2024.05.31

レッドモンレーヴ安田記念へ

2022年10月30日。2勝クラスのレースを前にして、蛯名正義調教師は「プレッシャーを感じていた」と語る。
 「ここは絶対に勝たないといけないと思っていました」
 東京競馬場の芝1600メートルで行われたこのレースに送り込んだのはレッドモンレーヴ。レースの名はレジェンドトレーナーカップ。その年の2月一杯で定年により厩舎を畳んだ伯楽・藤沢和雄元調教師の業績を称える1戦。そして、レッドモンレーヴは、蛯名厩舎に来る前、その藤沢厩舎に在籍していた馬だったのだ。
 「藤沢先生が育ててきた馬ですからね。当日は先生も来場されてプレゼンターをやるという話だったので、是が非でも勝たないといけませんよね」

 騎手時代の晩年から藤沢厩舎で研修を重ねていた蛯名正義調教師にとってレッドモンレーヴは知らない馬ではなかった。
 「能力的に充分勝ち負け出来る馬である事は、藤沢厩舎時代から目の前で見ていて分かっていました」
 そう言った後「ただし……」と続けた。
 「転厩してからは初めてのレースだし、休み明けでもあったので、そういう意味での不安というか分からない部分はありました」
 もっとも、休み明けに関しては「ノーザンファームから良い状態で戻していただいた」と言うが、そこからまた仕上げるにあたっては、必ずしも簡単ではなかった事が、続く言葉からも察せられる。
 「気性的にヤンチャな面があるので、機嫌を取りながら仕上げていかなければなりませんでした。具体的には甘やかし過ぎてはいけないし、かといってキツくやり過ぎてもダメ。さじ加減が難しいタイプなのです」
 結果的にそのさじ加減が絶妙だったようで、レッドモンレーヴは2着に1と4分の1馬身の差をつけ、先頭でゴールに飛び込んでみせた。
 「やっぱり強かったですね。藤沢先生に恥をかかさないで良かったです」
 ウイナーズサークルで藤沢元調教師から表彰された蛯名正義調教師は安堵の表情でそう語った。

 さて、レッドモンレーヴはその後、順調に成長し、昨年の京王杯スプリングC(GⅡ)では蛯名厩舎に開業後初となる重賞制覇を届けてくれた。
 そして、今週末の安田記念(GⅠ)には、昨年に続き2年連続での出走をする予定でいる。蛯名正義調教師は言う。
 「昨年同様、前走は京王杯でしたが、今年は2着に惜敗してしまいました。もっとも、直線では一旦先頭に立ったように決して悲観する内容ではありませんでした。また、昨年は京王杯の前にダービー卿CTも使っていたのですが、今年はそこをパスしたので、ひと叩きだけで安田記念に向かえます。そういう意味で、今回の方が良い感じに仕上げられました」
29日、坂路での最終追い切りも「気持ち良く走れていた」(蛯名正義調教師)そうだ。
また、追い切った後にはゲート練習も消化。こちらも「落ち着いてこなしてくれた」(同)との事だ。
「予想される道悪馬場は経験がないので分からないし、GⅠという事で相手もかなり強くなります。そういう意味で結果がどうなるかは分からないけど、能力的には通用するモノがあると信じています」

最後に、藤沢元調教師にも話を聞いて来たので、記しておこう。
「私の厩舎の最後の勝ち馬だし、デビューこそ遅れたけど、上まで行くだろうと期待していた馬なので、常に注目はしていました。東京のマイル、しかもGⅠとなると1400メートルは楽に走り切れるスピードと、1800メートルでもしのげるスタミナと、両方を兼ね備えていないと乗りこなせない舞台だと思います。もっとも、レッドモンレーヴなら、期待に応えてくれておかしくないでしょう」
 レース当日はイベント出演のため東京競馬場に来場するという藤沢元調教師。その目の前で、かつての管理馬が戴冠出来るのか。注目したい。

(撮影・文=平松さとし)