2024.05.21

キタサンブラックのダービー

2015年のクラシック戦線。皐月賞(GⅠ)を制したのはドゥラメンテ(美浦・堀宣行厩舎)。コーナーを上手に回れない等、荒々しい競馬ぶりながらも終わってみれば圧勝だったため、続く日本ダービー(GⅠ)では1番人気。それも単勝1・9倍という圧倒的な支持を受けていた。
 しかし、虎視眈々と逆転を狙っていたのが栗東の清水久詞調教師。皐月賞で3着だったキタサンブラックを競馬の祭典に送り込んでいた。後に清水調教師は次のように語っている。
 「皐月賞では切れ味の差でドゥラメンテに敗れてしまったけど、その後の反動もなく、良い状態でダービーへ向かえたので、流れ次第では逆転があっておかしくないと考えていました」
 指揮官はそんなふうに目論んでいたが、世間の評価は少し違った。ダービー当日のキタサンブラックのオッズは20・7倍。18頭立てで6番人気の支持に過ぎなかった。
 ここまでのキタサンブラックの成績は4戦して3勝。勝ち星の中には重賞のスプリングS(GⅡ)も入っており、唯一の敗戦が先述の皐月賞での3着だった。そのわりには支持を落としている感じになったわけだが、これには考え得る大きな理由があった。
 血統だ。
 キタサンブラックの父はブラックタイド。あのディープインパクトの全兄であり、文句の言いようがなかった。気が掛かりだったのは母系だ。
母の父はサクラバクシンオー。
スピードに優る名スプリンターは、裏を返せば距離に不安があった。そのため、皐月賞より距離が更に400メートル伸びて2400メートルとなる日本ダービーでは敬遠される傾向にあり、それが反映されたと思えるオッズになったのだった。
 しかし、清水調教師はレース前、旗幟鮮明に言っていた。
 「確かに血統的には距離に不安が生じるのは仕方ないと思います。でも、ブラックの走りそのものを見ていると、おそらく距離はこなせると思います。だから自信を持ってダービーに挑ませます」
 ところが、結果は残念ながら14着に敗退する。この結果を受けて、世間的には「やはり距離が長かったか……」と囁かれた。しかし、清水調教師はその時もかぶりを振っていた。
 「ダービーの独特の雰囲気のせいか、当日はこれまでにないくらいイレ込んでしまいました。そのせいで最初のコーナーに入る時からハミを噛んでしまいました。あれでは最後に苦しくなってしまったのも当然で、決して距離がもたなかった事が敗因だとは思っていません」
 これだけを聞くと、強がりに感じる人もいるかもしれない。しかし、清水調教師の算段に狂いがなかった事を、キタサンブラックが後に証明する。同馬は秋には3000メートルの菊花賞(GⅠ)を優勝すると、翌16年には3200メートルの天皇賞・春(GⅠ)も制覇。早くから調教師が見込んでいたように、距離を克服して、引退までに有馬記念(GⅠ)等、7つのGⅠを制したのだった。
 さて、そんな名馬を育てた清水調教師が。今年のダービーにはドゥラメンテ産駒でキタサンブラックの弟のシュガークンを送り込む。鞍上はキタサンブラックとのタッグで春秋の天皇賞を制す等したレジェンド武豊騎手。果たしてどんな結果が待っているのか。先週のオークス同様、今週末も東京競馬場の芝2400メートルに注目したい。

(撮影・文=平松さとし)

※無料コンテンツにつきクラブ馬には拘らない記事となっております。