2024.02.20
エミールトロフィーの結果から見えてくる欧州と日本の力差
現地時間2月17日、カタールでエミールトロフィー(カタールGⅠ)が行われた。
ドーハにあるアルライヤン競馬場の芝2400メートルが舞台のこのレース。円安という事で総賞金250万米ドル(約3億7500万円)、1着賞金142万5000米ドル(同2億1375万円)はローカルGⅠとしてはかなりの高額になる。と、いう事もあり、今年は3頭の日本馬が出走。結果は2着がゼッフィーロ(栗東・池江泰寿厩舎)、3着サトノグランツ(栗東・友道康夫厩舎)、4着ノースブリッジ(美浦・奥村武厩舎)と、日本流にいうと掲示板に全てが乗った。
しかし、それら日本馬をまとめて負かしたのがレベルスロマンスだった。
同馬は今回、ドバイにある厩舎からの遠征だったため“アラブ首長国連邦所属”となっていたが、管理するのはイギリスのチャーリー・アップルビー調教師で、実質的にはヨーロッパの馬。一昨年の22年にはブリーダーズCターフ(GⅠ)等、GⅠを3勝しており、今回の出走馬の中では完全に格上といえる存在だった。加えて名手W・ビュイック騎手が先手を奪ってスローのマイペースで逃げたとなると、これをかわすのは難しかった。
戦前には「日本馬もチャンスはある」という声がもれ聞こえたが、やはり2400メートルの路線はヨーロッパの馬が強い。例えば凱旋門賞(GⅠ)で日本勢が負ける度に「この馬場は日本馬に合わない」といった声が聞かれるが、必ずしもそうとはいえないデータがある。
21、22年にはクロノジェネシスやタイトルホルダー、ドウデュースらが凱旋門賞に挑戦しながらもいずれも惨敗に終わり、先述した通り「日本馬には馬場が合わない」と言われたが、同じ日に行われたフォレ賞(GⅠ)ではエントシャイデンが2年連続で3着に善戦した。
逆もまた真なりで、アメリカの2400メートル戦線の頂点といえるブリーダーズCターフでは、ほとんどのケースでヨーロッパの馬が勝っている。これはドバイのドバイシーマクラシック(GⅠ)や香港の香港ヴァーズ(GⅠ)も同様。近年でこそイクイノックスやグローリーヴェイズ等が勝っているが、どちらのレースも日本馬の数倍ヨーロッパの馬が優勝している。ドバイや香港は、馬場だけで考えると日本馬の方がヨーロッパ馬より合っていそうで、事実、ドバイターフ(1800メートル)や香港カップ(2000メートル)等は日本馬の活躍が目立つ。
これはヨーロッパ内でも同様で、日本勢が苦戦しそうなヨーロッパの馬場でも、短中距離路線ならエイシンヒカリやタイキシャトル、アグネスワールド等、多くの馬が昔から結果を残している。日本馬どころかオーストラリアやアメリカ、香港の馬でもその路線なら勝ち馬が出ているのだ。
しかし、こと2400メートル戦線となると、ヨーロッパ勢の活躍が目立つ。これらを考慮すると、馬場云々よりも距離の方が重要かと思えるのだ。
そこでエミールトロフィーに話を戻す。やはりという感じでヨーロッパのGⅠ馬レベルスロマンスが勝利したわけだが、一方で2着のゼッフィーロが最後の直線で大きくヨレなければ、と思える場面を作ったのを始め、3頭全てが上位でゴールにしたのは日本馬のレベルの高さを示したと言える。今回の3頭はいずれも日本でGⅠを勝った事がないにもかかわらず、実績のある馬を相手に、これだけ善戦出来たのだ。ヨーロッパで2400メートルのGⅠを制した日本調教馬は1999年にサンクルー大賞典(GⅠ)を制したエルコンドルパサーただ1頭だが、近いうちにその壁を崩せる日本馬が出て来るのは間違いないだろう。
(撮影・文=平松さとし)