2024.01.09

ジョアン・モレイラの伝言

昨年も短期免許で来日し、わずかな期間で46勝を固め打ちして、京都2歳Sのシンエンペラー、東京スポーツ杯2歳Sのシュトラウスなどをクラシック候補に導いたジョアン・モレイラ騎手は、母国ブラジルで正月休暇を楽しんだのも束の間、松も明けない1月6日にはウルグアイに姿を現し、南米最大の女王決定戦G1シウダー・デ・モンテビデオ大賞(マローニャス競馬場・ダ2000m)でパチョーリという馬で好位から抜け出し、5馬身ぶっちぎる圧勝劇を演じています。変幻自在の〝マジックマン〟ぶりは、いつでも・どこでも、冴えに冴え渡っています。日本でいえばエリザベス女王杯にあたる女王決定戦ですが、アルゼンチン・ブラジルなどの競馬先進国からも出走馬が馳せ参じる南米最大の牝馬限定レースとして有名です。このレースに先立って記者会見が行われ、モレイラさんは日本競馬の驚くべき成長ぶりと、社会的・文化的に安定した成熟ぶりを熱く語り、「自分は日本競馬の大ファンなんだ」と絶賛しています。

「ここ数年、日本競馬が世界を驚かせている。あなたは世界中で騎乗しているが、日本競馬がここまで成長した理由と、日本競馬と他の国の競馬の違いを教えて欲しい」という記者の質問に、モレイラさんは日本の社会経済文化に詳しく触れながら、こう語っています。
「私は何年も前から日本を拠点にする(=通年免許を取る)というプランを持っていたが、残念ながら個人的・家族的な理由で叶わなかった。しかし私の意見としては、日本競馬は世界でもっとも成長した。他の国と比べるとありえないレベルで進化した。80年代の黎明期、90年代の成長期を経て、現在では中距離において世界最高の馬を持っている。そのことは、アメリカ・中東・オーストラリア・香港といった国際的な舞台で日本競馬があげている成果が示している。日本人が40年間でおこなってきた素晴らしい努力が実ったのである」と、主にジャパンカップ創設以降にスポットライトを当てて、日本競馬の歩みとその成果を振り返っています。

さらにモレイラさんは日本の馬産にも考察を及ばして「日本競馬は素晴らしい血統も有している。世界中で優秀な繁殖牝馬を求めている。サンデーサイレンスという偉大な種牡馬のラインを持っている。南米にもウルグアイにもサンデーサイレンスのラインがある(アグネスゴールド、ハットトリックなどが種牡馬として大成功)。サンデーサイレンスは日本競馬のシンボルであるディープインパクトを輩出し、ディープインパクトは競走生活を終えた数年後に第2のサンデーサイレンスとなった。私の願いとしては、南米生産界から日本競馬が輩出しているような優秀な馬が産まれて欲しい。それだけでなく、日本競馬がおこなっているような非常に組織的で、非常に魅力的で、非常に名誉があり、非常に社会を尊重した開催(=フェスティヴァル)がおこなわれて欲しい。長くなってしまって通訳の方に申し訳ないが、私が言ったことをここにいる全員に理解して欲しい。他のインタビューでも述べたが、自分は日本競馬の大ファンなんだ」

記者というのは洋の東西南北を問わず意地の悪いツッコミをする習性があります。そんな一幕がここウルグアイでも見られました」。日本の世界一を誇る馬券売上に関して、こんな質問が飛び出しました。「日本人は競馬や馬よりもギャンブルが好きであると確信している。それについてはどう思うか?」。かなりツボを衝いた本質的な質問にも思えましたが、モレイラさんは戸惑う風もなく、「私には断言できる。日本人はギャンブルではなくて競馬を愛している。日本人が持っている競馬やスポーツに対する情熱は本物だと信じさせられた。騎手としての経験から言わせてもらうと、何度かジャパンカップに騎乗させてもらったが、スタンドにいるファンが創り出す雰囲気は言葉では表せない。日本の競馬ファンは、コースにいる我々や馬にエネルギーを伝えてくれる。信じられないほどのパッションだ。私はあなたたちに断言するが、日本人は競馬のファンであり馬のファンである。ギャンブルのファンではない。たしかに、日本競馬では信じられないほどの賭け金が動く。だが、彼らがもっとも情熱を注いでいるのは馬である」。

モレイラさんの言葉は熱くパッションに充ち充ちています。日本競馬が、果たしてモレイラさんが賞賛してくれるような成熟したレベルに達しているのか?こそばゆい気持ちが先立ちますが、我々が目指すべき指標が、名手が熱く語りかける一語一句に刻み込まれているように思われてなりません。