2023.10.03

サンデーサイレンスな週末

日曜・阪神メインのポートアイランドS(L)をドーブネが2番手から抜け出して勝利のゴールに飛び込み、ディープインパクトが父サンデーサイレンスの〝永遠不滅〟の大記録・JRA通算2749勝に遂に並びました。同じ時間帯の中山では、G1・スプリンターズSを白毛一族の鹿毛馬ママコチャが、信じられない勝負根性を発揮し、重賞未勝利の身ながらスプリント界の頂上に登り詰めています。ご承知のように〝純白のヒロイン〟ソダシの全妹ですが、その牝系を遡ると鹿毛の母ウェイブウインドと青鹿毛の父サンデーサイレンスの間に〝突然変異〟で誕生した白毛の祖母シラユキヒメに辿り着きます。この一族は土曜中山メインの秋風Sをルージュエクレールがファンタスティックな直線一気の強襲を決めてオープン切符を掴み獲るなど、目覚ましい勢いで層の厚さを増しています。ディープの人間の想像力を軽々と超えていく凄さ、シラユキヒメの名繁殖としての測り知れない底力には舌を巻くばかり。同時にそれを生み出したサンデーサイレンスというサラブレッドには、ただただ畏れ敬うしかありません。

この週末、海を渡ったパリロンシャンにも〝サンデーサイレンス旋風〟が吹き荒れました。毎年10月の第1土曜と日曜は「凱旋門賞ウィークエンド」と銘打って、年齢・性別・距離など各カテゴリーの豪華絢爛なチャンピオンシップが組まれています。今年は3歳馬の超長距離戦G2・ショードネイ賞3000mで幕を開けます。この凱旋門賞への名誉ある序曲を奏でたのはダブルメジャーという騸馬でした。ファッションブランド・シャネルのオーナー家として知られ、大オーナーブリーダーでもあるヴェルテメール兄弟が所有牝馬を日本に送り込んでダイワメジャーを種付けして誕生しています。ご承知のように、ダイワメジャーはJRA平地重賞46勝の猛者ですが、勝ち鞍は1600m以下に集中しており、最長距離はカレンブラックヒルが制したG2・毎日王冠とG3・小倉大賞典の1800mが上限。スピードの勝った早熟型のマイラーです。その血統が3000mの重賞を勝ってしまうのですから、環境や育成、調教など後天的要素の影響は大きなものがあります。特にショードネイ賞は、今月下旬のG1・ロワイヤルオーク賞の前哨戦として、この10年で4頭もの勝ち馬を出しているレースです。ダイワメジャー産駒がステイヤーの頂上戦を制覇するかもしれません。

ロンシャンの〝サンデーサイレンス旋風〟は、それに止まりませんでした。ショードネイ賞と同日に行われたG2・ドラール賞をハットトリックの孫ホライズンドーアが快勝しています。ドラール賞は凱旋門賞に出走資格がない騸馬のために設けられた〝騸馬の凱旋門賞〟と異名される格式を誇る伝統の名レースです。歴代チャンピオンからはシリュスデゼーグルのように重賞レースを勝ちまくり、頂上決戦・英チャンピオンSを制覇した名馬を輩出しています。ホライズンドーアも今月中旬にアスコットで行われるチャンピオンSへの挑戦を表明しており、ワクワク感が膨らんできました。もともとフランスはサンデーサイレンスへの関心が深いお国柄なのですが、ハットトリックの凄さは世界を股にかけた活躍ぶりです。フランスをはじめアメリカ、ブラジル、アルゼンチンなどでG1馬を次々と輩出し、特にブラジルで昨季(22~23年シーズン)は、3年連続リーディングサイアーに君臨していた同じサンデーサイレンス系のアグネスゴールドを破ってチャンピオンに輝いています。

確かにディープインパクトの存在は突出したものですが、こうなるとディープインパクトが凄いという話では終わらず、サンデーサイレンス系全体が世界レベルの勢力拡大を続けています。「凱旋門賞ウィークエンド」の大一番では、サンデーの曾孫スルーセブンシーズが馬群を裂いて鋭い末脚で4着に突っ込み、孫コンティニュアスが5着に続き掲示板内に踏ん張りました。実績やローテーションから見れば大健闘と褒めてあげていい内容でしょう。1〜3着を独占したガリレオ・フランケル系の牙城に迫ったサンデーサイレンス系の存在感がより一層増す結果となりました。ただしガリレオ系はヨーロッパで、サンデー系は日本で、それぞれ〝血の飽和〟状態に直面しています。今年の凱旋門賞が、双方の血統のアウトブリーディング的融合を暗示するとしたら、競馬の未来へ一筋の光明となりそうです。