2023.09.23

ダート競馬新時代の夜明け

明日24日、金沢競馬場で「ネクストスター」シリーズが開幕します。この番組は、2〜3歳におけるダート短距離路線の整備と拡充を目的に、2歳時は各場単位に、3歳時は全国4ブロックに別れて地区チャンピオンを争う重賞級の「ネクストスター」を皮切りに、Jpn2・兵庫チャンピオンシップ1400m、Jpn3・北海道スプリントC1200mのスプリント3冠で世代王者を決定します。目を引くのは賞金の高さです。2歳時の各場毎ネクストスターは1着賞金1000万円に設定されています。金沢を例にとれば、世代頂上戦の石川ダービーが今季700万円でしたから、それを軽く上回る奮発ぶりです。ここ最近、地方の賞金は目覚ましい増額傾向にありますが、このネクストスターの〝破格〟賞金をカンフル剤に、さらに賞金が総体的に上がれば、入厩馬が増え、その質も高まるのが自然です。裾野の広さを考えれば、その波及効果は小さくないはずです。

こうした環境が整うと、ダート適性の高い馬の使い方が大きく変わってくる可能性が開けます。先駆者は藤沢和雄元調教師がその一人でしょう。JRAも新馬戦のスタートが早くなっていますが、その時期にダート戦は闇夜に星を数えるような状態です。芝のオンパレードですね。ダート馬には手も足も出ず、無駄に時間だけが過ぎ去っていきます。藤沢師の管理馬にペルーサ産駒のラペルーズという馬がいました。6月の芝新馬戦に大敗すると、その一戦だけで師は北海道・門別に移籍させます。するとラペルーズはポテンシャルを開花させてポンポンと連勝を飾り、JRAの上級レースへの挑戦権を手土産にダート戦が組まれるようになる暮れにはJRAに復帰し、「ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー」指定レースのLRヒヤシンスSを快勝して夢の扉に手をかけたこともあります。

ここからは想像の産物になります。実現はしませんでしたが、藤沢師は4月スタートの門別の新馬戦を足がかりに、6月中旬のロイヤルアスコット2歳戦への挑戦も構想していたと思います。アメリカのウェスリー・ワード調教師が4月のキーンランドからアスコットへというローテーションを確立し、今やヨーロッパにおける大種牡馬の一角に上り詰めたノーネイネヴァーなどを輩出、〝ロイヤルアスコット・ハンター〟の異名を轟かせている日本版です。イギリス修行が長くロイヤルアスコットの高貴な価値を肌身で知る藤沢師、天皇賞馬スピルバーグでG1・プリンスオブウェールズに遠征していますが、条件が整えば2歳戦にも勇敢にチャレンジしてくれたはずです。

地方競馬の充実が進むことで、さまざまな夢は飛躍的に前進します。今後はハナから地方に入厩して、新レース体系を〝虎の穴〟として成長の糧とした若駒が、JRAを代表する看板馬に台頭するようなケースも当たり前になるかもしれません。古馬になってもダート番組の充実度では地方に一歩も二歩も譲ります。交流重賞の現状は、中央馬にとっては狭き門となっていますから、出走機会を重視すれば地方在厩馬にアドバンテージがありそうです。もはや〝地方対中央〟の因縁戦ではなく、〝オールジャパンVS世界〟の総力戦という新しいパラダイム(枠組み)が浮上してきます。サッカーやラグビーなど世界の人気スポーツと同じ〝ワールドカップ〟を頂点とする構造です。

壮大な夢物語にとどまらず、足元の競馬産業活性化にも波及効果が及びそうです。今年、地方競馬で大ブレークしているモーニンやダノンレジェンドなどのスプリント種牡馬にとっても光明でしょう。ダート短距離路線の整備と充実が進む今後は、7年連続地方リーディングサイアーに輝いたサウスヴィグラスのような活躍も夢ではないでしょう。特にダノンレジェンドは、アメリカの土着血統として細々とサイアーラインを繋いできたヒムヤー系の13代目に当たります。今や本家アメリカですら〝絶滅危惧種〟視されている〝幻の血〟が、誰も想像もしなかった日本の地で蘇ろうとしています。ダノンレジェンドの場合、どんな牝馬でも〝配合フリー〟なのですから、サンデーサイレンス系への血のバイアス(偏り)修復のアウトブリード種牡馬として、日本競馬界に計り知れない貢献を果たしてくれそうです。