2023.08.10

ポテンシャルを押し上げる種牡馬たちの物語・序章

世界競馬のリーダーシップを執るエイダン・オブライエン厩舎の公式HPに、ちょっと気が早いような気もしますが、クールモアスタッドに来春スタッドイン予定の新種牡馬ロースター(リスト)が発表されています。それによると先ごろ引退が決まったリトルビッグベア(父ノーネイネヴァー)を筆頭に目下G1の4連勝を含め6連勝とオブライエン師が「ジャイアンツコーズウェイ以上」と今世紀最初の年度代表馬を凌駕する才能を評価するパディントン(父シユーニ)、二冠馬キャメロットの傑作ルクセンブルク、ディープインパクト最後にして最高を熱く期待される超大物オーギュストロダンが「産駒のポテンシャルを押し上げる4頭」と銘打って紹介されています。

クールモアも今世紀初頭から屋台骨を支えてきた大種牡馬ガリレオを失い、そのガリレオが遺した名牝たちの配合相手として大きな期待をかけたディープインパクトも天に召され、世界競馬の頂点を占め続けた帝国の先行きに、少なからず不安の影を落としていました。前項で記した「期待の4頭」は、クールモアの未来を創造する希望のカルテットという位置付けでしょうか。中でも熱っぽさを感じさせるのが、パディントンの存在です。HP上では、ガリレオ牝馬の最高傑作として万人が承服するマインディングとの仮想血統図が掲載されています。2歳時にアイルランドのG1モイグレアスタッドS、イギリスのG1フィリーズマイルを楽勝すると、明け3歳の英1000ギニー、英オークスを連勝、古馬相手の10ハロン戦プリティポリーS、ナッソーSをも制し、締めくくりにマイル頂上戦クイーン・エリザベス2世Sと1400mから2400mのカテゴリーが異なる3階級で女王に輝いています。文句なしの年度代表馬でした。競走馬としては前出パディントンに似通ったタイプと言えそうです。

パディントンは世代頂上戦セントジェームズパレスSや全英王者決定戦サセックスSを完勝するなどマイルを十八番(おはこ)としていますが、距離を10ハロンに延ばしたエクリプスSでも強豪古馬を完封しており、まだそこを見せていません。12ハロンとなると課題もありそうですが、ポテンシャルの高さは飛び抜けています。この先、どういう路線に向かうのか良く見えませんが、年度代表馬の最有力候補なのは確かです。さて、そのバディントンにかけられている思いは、ガリレオ再生のミッションです。その代表例としてマインディングとの仮想配合が試みられているのですが、競走馬としてだけでなく繁殖牝馬としての優秀さも折り紙付きです。マインディングの全妹エンプレスジョセフィンは愛1000ギニーを、同チューズデーも英オークスを勝っており、キラ星のように名馬、名牝が居並ぶクールモアにあっても、屈指の繁殖ファミリーであるのは間違いがありません。バディントンの父シユーニはガリレオとは極めて優秀なニックスの間柄にあるピヴォタルの後継血脈であり、母父ガリレオの牝馬との間には、サドラーズウェルズ4×3のクロスが生まれ、ガリレオの血を活性化させるに有能なデインヒル4×4のサポートも受けるています。

サドラーズウェルズ、ガリレオ親子は、20世紀末から21世紀前半の40年間近く、ヨーロッパ競馬のトピックを独占してきました。日本におけるサンデーサイレンス、ディープインパクト親子にも同じことが言えるのですが、その巨大な帝国が大きな転換期に直面しているのも確かなようです。かつて世界中の先進的オーナーブリーダーがガリレオの血を求めアイルランド詣でに精を出したように、今度はガリレオ牝馬をバディントンの元に逆輸送するのでしょうか?同様にディープインパクトのために名牝群を日本に送り込んだのは逆に、今度はオーギュストロダンとの配合を願って、はるばる日本から飛ぶことになるのでしょうね。国際化時代と言われて久しいのですが、これからが真のボーダレスの始まりなのかもしれません。