2023.07.07

セレクトセール前夜祭

今年も“夏の風物詩”セレクトセールの季節がやってきました。競馬場の新馬戦を中心としたレースの数々と馬産地が、ホースマンは無論のことファンの気持ちの中でもダイレクトに結びつく特別な時間です。ワクワクも一入(ひとしお)、今週末の競馬場は、まるでセレクトセールを祝う前夜祭のように盛り上がるんでしょうね。

「ディープインパクトのいないセレクトセール」は今年で2年目を迎えます。一昨年はラストクロップの1歳馬4頭が上場され、イの一番に登場したオープンファイアが3億3000万円のプライシングで会場をどよめかせました。同期にはイギリスとアイルランドの2カ国でダービーを制したオーギュストロダンがいたのですから、大した世代です。ディープインパクトの凄さは奥底しれません。サンデーサイレンスが絶対王者の座を不動のものに固めつつあった98年にスタートし、ディープインパクトの全盛期を盛り立てた伝説のセールの存在に身震いさせられる思いです。この偉大すぎる父子の偉業を引き継ぐ後継種牡馬を輩出できるか?日本競馬界の未来が、ここにかかっているのは誰もが肯くしかありません。簡単なことでは、無論ありません。サンデーサイレンスが初年度産駒から日本ダービー馬タヤスツヨシを輩出し、ディープインパクトの最終世代に英愛ダービー・ダブル制覇のオーギュストロダンが出現する、こんな奇跡は滅多に起きるものではありません。我々はとんでもないところまで、来てしまったのかもしれません。大変な時代に向き合っているようです。身の引き締まる思いにさせられますが、ラストクロップといえば、今週のデビュー組からもハーツクライの最終世代ルシフェルが土曜福島で出番を待っています。ディープインパクトの国内6頭ほど少なくないですが、登録馬35頭と多くはありません。馬名は「明けの明星」という意味らしいですが、凛々しく爽やかなイメージが伝わります。日本で唯一ディープインパクトに土をつけた血の潔さを見せつけてくれるでしょうか?

競馬界のカレンダーで大きな節目となるイベントですから、この日を照準に新馬戦がスタートするあたりから、話題づくりに熱がこもってきます。目立ったのはモーリスでしょうか。自身も本格化は4歳以降だったように、産駒の仕上がりも全般に早いとは言えないモーリスですが、今年は開幕週のシュトラウスが9馬身ちぎる圧勝で初陣を飾りました。その後も順調に勝ち上がりを積み重ねており、目下2歳リーディングサイアーの先頭を走っています。経験を積んでの成長力には定評のある血統で、この俊敏な立ち上がりはセレクト会場でも注目を浴びそうですね。同じような意味合いで、奥手イメージなのに早くから頑張っているスワーヴリチャードも好印象でしょう。

日曜中京の新馬戦2000mが、セレクト合計2頭で4億6200万円対決の豪華版ということも手伝って話題を集めています。評判の新種牡馬レイデオロは、ここまで案外な結果に終わっていますが、満を持して登場するラケダイモーンは“真打”の誇りを披露する意気込みです。対決相手のドゥマイシングは“大物揃い”の声が大向こうから飛び交うドゥラメンテの血。母系も素晴らしく“世界的良血”と言って良く、父系とアウトクロスになっているのにも好感が持てます。“世界の矢作”らしく大物に育て上げてくれるでしょう。その“黄金対決”の15分前に発走の函館1800m新馬戦では、武豊騎手騎乗でシラユキヒメ一族の白毛馬カルパが走ります。桜花賞などマイルG1を3勝しているソダシの異父弟ですが、父がクロフネからモーリスに替わって、持久力増強が期待できますから、姉よりは距離が持ちそうですね。白毛の色合いやバランスがとても上品で、ファンに愛される人気者に育ってくれそうな雰囲気があります。いずれにせよ、「セレクト・イヴ」を存分に楽しませてくれたら幸せです。