2023.06.21

新生ロイヤルアスコットはニューヒーローが続々

ロイヤルアスコットが開幕しました。今年は開催オーナーであるエリザベス2世女王がいらっしゃらない「競馬の祭典」になります。たいていの方には初めての経験です。何しろ70年間もずっと国王をお勤めになって、300年前にアン女王によって創建されたアスコット競馬場の格式高い伝統と栄光の歴史を受け継いでこられたのですから。女王の競馬への熱い想いと情熱には感謝しかありません。そして、女王が守り続けてきた伝統が今年も生き続けることにウキウキする気分と、同時にどこかポッカリと穴が空いたような寂しさも拭えない特別なロイヤルアスコットです。

そうした「ロイヤルアスコット新世紀」の幕開けに祝砲を打ち上げるような勢いで、初日からフレッシュなニューヒーローが出現しました。自然のままの原野だったアスコットに競馬場を開闢(かいびゃく)したアン女王の先見の明に敬意を表して、初日の第1レースはG1・クイーンアンSと決まっています。その伝統のレース、いきなり波乱の幕開けとなります。G1勝ちどころか出走経験すらなかった格下トリプルタイムが、スタート直後から掛かったり宥(なだ)めたり、経験の浅い若武者らしく粗削りなレースぶりながら、最後は鞍上との息もピッタリに、抜け出した本命馬インスパイラルを差し返す力技を繰り出して抑え込みました。1600mを走る間に一生分の成長を遂げたような素晴らしいレースを披露してくれました。大種牡馬ガリレオ亡き後のチャンピオンへの階段を上りつつあるフランケル産駒ですが、欧州チャンピオン血統を凝縮した母系との間に、サドラーズウェルズとフェアリーキングの全兄弟クロス3×3を抱え、成長力と底力に富んだ血統から、後半戦でのさらなるブレークが期待できそうです。

直線1000mのアスコット名物の電気石火戦G1・キングズスタンドSは、昨年の欧州チャンピオンスプリンターに輝いたハイフィールドプリンセスが底力の片鱗を見せたものの、勝ち馬ブラッドセルの斜行気味のフィニッシュの影響で追いづらくなる場面もあり、気の毒な2着でした。この後は中3日のローテーションで最終日のG1・クイーンエリザベス2世ジュビリーSに挑みます。女王の即位50周年を記念してゴールデンジュビリーSと改名され、その後も60周年でダイヤモンドジュビリーS、70周年を迎えた昨年はプラチナジュビリーSとして行われています。日本風に言えば、今後は「エリザベス2世女王記念」として、女王の遺徳を偲び、そのお人柄に想いを馳せる競馬ファンには欠かせないレースとして伝統を刻んでいくのでしょう。

中3日でG1レースを二度走る超過酷ローテは、最近では19年のブルーポイント、その前は03年にオーストラリアから遠征のショワジールが克服していますが、ヨーロッパでは5ハロンと6ハロンでは役者の顔ぶれがガラリと変わるほど別カテゴリーの傾向があります。双方を勝ち切るのは、スプリントとマイル、マイルと中距離といった2階級制覇に遜色ない難事業とされます。今回はちょっと不利に泣いたフィールドプリンセスですが、捲土重来の反撃が楽しみです。一方のブラッドセルは昨年のロイヤルアスコット開幕日のG2・コヴェントリーSでスター街道に乗った馬ですが、その後の伸び悩みを払拭する鮮やかな復活劇でした。ロイヤルアスコットの申し子のような存在で、今後もこのコースでは注意が必要なようです。

3歳マイル王決定戦のG1・セントジェームズパレスSは、英2000ギニー馬シャルディーン、愛2000ギニー馬パディントンの両雄に加え、仏2000ギニー2着のアイザックシェルビーも顔を揃えて、ヨーロッパ選手権らしい華やかな一番になりました。今年が「ラスト・ロイヤルアスコット」となるランフランコ・デットーリが騎乗するシャルディーンの実力が一枚上と見られていましたが、勝負所で後方からスルスルと進出したパディントンが、快脚を飛ばすシャルディーンに襲い掛かり並ぶ間もなく抜き去ります。一瞬の出来事でした。そこから突き放す瞬発力も素晴らしく、あっという間に4馬身近く突き抜けていました。名門エイダン・オブライエン厩舎で地味な存在だったのですが、一戦毎に力を付けてきた印象。レースぶりを見る限り、もっと長い距離でもやれそうな雰囲気があります。今後の成長が楽しみなニューヒーローですね。オブライエン師はパディントンの勝利が、ロイヤルアスコットにおける通算83勝目になります。偉大な先達サー・マイケル・スタウト調教師の82勝を抜いて歴代リーディングトレーナーの先頭に立ちました。エイダンVSマイケルの頂上対決はこれからも続くのでしょうが、歴史的な名勝負の誕生を待ちたいものです。