2023.06.20
競馬場に嵐(ストーム)を呼ぶ一族の物語
先週末は現2歳にとって初めてのダート戦が行われました。「ダート新時代」のキャッチコピーでダート競走体系の大変革が、中央・地方の壁を越えて着手されていますが、これだけ大きな規模に成長した競馬事業の改革は簡単ではありません。一貫した歴史と伝統を大事に踏まえた上での実施となれば、難易度はさらに高くなります。「大改革」と言っても、JRA単体での番組が一足飛びに様変わりするわけでもなく、開幕した今年の新馬戦も、1開催1レースが原則で粛々と進められると考えた方が良さそうです。そんな状況下での新馬戦スタートは、ダートに我が道を見出しているサラブレッドたちにとってみれば、ようやく待ちに待った「干天の慈雨」に恵まれた気分でしょうか。出走馬すべてが蓄えに蓄えたエネルギーを爆発させる熱戦が展開されましたが、中でもストームキャット系の勢いが、とりわけ凄まじいことになっています。北から函館・東京・阪神の順でダート新馬戦のスターティングゲートが開きましたがゴールを先頭で通過したのは、すべてがヘニーヒューズ産駒で、土曜東京は1-2フィニッシュのオマケ付きでした。さらに加えて日曜東京メインのG3ユニコーンSも、ヘニーヒューズ直系のペリエールが圧勝!すべての注目ダート戦で「ストーム」(嵐)が吹き荒れたウィークエンドになりました。
ストームキャットの血筋が一躍大きな注目を浴びるようになったのは、ディープインパクトとの相性の良さ(ニックス)がキッカケだったでしょうか。母系にストームキャット系を抱えるディープインパクト産駒からダービー馬キズナや最初のヨーロッパクラシック馬ビューティーパーラーが登場して、日本の枠を飛び越えた国際性を発揮すると、海外G1を舞台に無双するリアルスティール・ラヴズオンリーユー兄妹、エイシンヒカリが続き、安田記念のサトノアラジンはオセアニアで大種牡馬への道を歩き始めています。前出ビューティーパーラーはストームキャットの代表的後継ジャイアンツコーズウェイが母父ですが、この馬は初産駒の現2歳から活躍を期待されているブリックスアンドモルタルを輩出し、「ストーム」の風域を日本でも一層拡大しそうです。ジャイアンツコーズウェイ自身、全米リーディングサイアーに3度も輝いた大物種牡馬ですが、ストームキャットからハーラン、その仔ハーランズホリデーを経て出現したイントゥミースチーフは4年連続でチャンピオンの座を独占しています。源流ストームキャットの2度を加えると、10回の大台に王手がかかっています。
このチャンピオンの血が代々受け継がれていく秘密は、見栄えの良い健康な馬体と素直で賢い気性の健全さにあるのでしょう。それらがベースとなって仕上がり早くスピードの富み、早熟なのに学習能力の高さが成長力を促す稀代の王者血統を形づくっているのでしょう。こうした稀有な早熟性と成長性のコラボを実現しているのはヘネシーから分岐した系統でしょうか?
ヘネシーの一族で先陣を切ってブレークしたヨハネスブルグは、アイルランド、フランス、イギリスとヨーロッパG1を総ナメして、仕上げにダートのBCジュベナイルを制覇して4カ国G1を4カ月間で完全制覇しています。仕上がり早く、芝もダートも関係なくポテンシャルの高さで押し切ってしまう卓抜した才能は、主にスキャットダディなどを通じて世界に増殖中。無敗の米三冠馬ジャスティファイ、ヨーロッパではクールモアに迎えられたノーネイネヴァーが大成功しており、南米のイルカンピオーネなどワールドワイドに勢力を拡大しています。この波は日本へも押し寄せており、高松宮記念など日本育ちのミスターメロディ、ヨーロッパ2歳チャンピオンのカラヴァッジオなどが馬産地で人気を集め、この先の産駒デビューを控えています。
ヘネシー系のもう一方の雄がヘニーヒューズ。アメリカ時代に前述イントゥミースチーフの半妹でG1を11勝する女傑ぶりを発揮したビホルダーを出して世界に名を轟かせた種牡馬です。日本でも、一本調子ながら抜群のスピードを誇ったモーニン、芝砂二刀流でG1朝日杯フューチュリティSを制したアジアエクスプレスなど早くから輸入産駒が活躍し、縁あって日本に迎えられ早熟なスピード血統が評価され着々と種付料をベースアップさせました。ここ3年は500万円とダート種牡馬としては破格とも言える高額で生産者の信頼を集めています。
後継馬もアジアエクスプレスが堅実な走りを見せ、ヘニーヒューズ・ウィークに湧いた先週は芝とダート双方で勝ち馬を送り出したのは、さすがでした。今年から産駒をデビューさせたモーニンは、わずかな期間に地方を中心に7頭が勝ち上がる目の醒めるようなロケットスタートを決めています。対象を中央・地方のダート戦に限れば、全体でヘニーヒューズ、2歳部門でモーニン、親仔でトップを独走しているというのが現在のリーディングサイアー戦線の実情です。2歳ダート戦はまばらな開催になりますが、本来は芝適正も高い血統ですから、現状の勢いを無視できないレースが続きそうです。