2023.05.12

世界の競馬地図

IFHA(国際競馬統轄機関連盟)がロンジン社のスポンサードで実施する「ワールド・ベストレースホース・ランキング」の最新版が発表されました。今回は今年1月1日から5月7日までに施行された世界の主要レースを対象としたものです。新たに加わった評価対象レースは、日本の桜花賞&皐月賞を皮切りに、イギリスの2000ギニー&1000ギニー、アメリカはケンタッキーダービー&オークスなどのクラシックレース第1弾が含まれています。古馬では前回分のドバイミーティング以降、日本だと天皇賞(春)、大阪杯、香港のチャンピオンズデー、オーストラリはザチャンピオンシップスを中心とした一連のレース群がピックアップされ、ようやく開幕に漕ぎ着けたヨーロッパからはガネー賞がテーブルに乗せられました。各国チャンピオンクラスが出揃うのは、まだこれからという時期にある現段階では、レーティングの数値やランキングの順位も参考程度に受け止めておくのが無難でしょうが、相変わらずドバイシーマクラシックにおけるイクイノックスの129ポンドが頭一つ抜けた世界一の評価を受けています。

前回も香港勢の躍進を取り上げたのですが、そのトレンドが今回はさらに加速しました。“香港の英雄”ゴールデンシックスティが125ポンドで世界No.2と、若き挑戦者たちを寄せ付けない堂々たる貫禄を見せているのは当然として、そのチャレンジャーたちもロマンティックウォリアー、カリフォルニアスパングルと差なく後を追っている層の厚さはさすがです。スプリント分野とカテゴリー違いのラッキースワイニーズも目下5連勝中と上昇一途の勢いは素晴らしいものがあります。香港勢のランキング順位は、2位、3位タイ、それに続く5位、6位タイとイクイノックスを除けば、ほぼ上位を独占しています。ちょっと異状な事態になっています。これも香港競馬のビジネスモデルの成功が引き金になっているのでしょう。パート1国昇格以前から売上も賞金も右肩上がりで、スケールは先輩格の日本に一歩譲りますが、伸びる勢いでは世界トップクラスの成長を誇って来ました。とくに賞金面の充実は、G1級から下級クラスまで素晴らしい伸び率を示して来ました。ご存じのように香港は、馬産なき競馬大国として知られ、競馬資源である競走馬はほぼ100%を輸入に頼っています。その是非は別にして、賞金の増額は輸入する競走馬の質の向上にダイレクトに反映されます。輸入先であるヨーロッパやオーストラリア・ニュージーランドの一流ホースマンをアドバイザーに迎えて、レベルの高い馬見をしているのも武器になっているようです。ランキングの上位を形成している馬たちは、そうして香港にやって来たエリート馬ばかりです。コロナ禍や中国本国との軋轢(あつれき)にもへこたれず、成長し続ける香港競馬のビジネスモデルには敬意しかありません。

春のチャンピオンズデーでは、香港勢にまったく歯が立たなかった日本調教馬ですが、“ドバイの遺産”もあってランキング上は何とか面目を保った格好です。タイトルホルダーが日経賞の124ポンドで3位タイに踏ん張りましたが、天皇賞(春)で競走中止と先行きに暗雲が垂れ込めています。勝ったジャスティンパレスは119ポンド評価で、天皇賞(春)のレベルは近年にないほど低下しました。マラソン領域での巻き返しなるか、ちょっと気になります。他ではウシュバテソーロがドバイワールドCの122ポンドでダートでは世界一、上位は1位、3位タイ、6位タイで香港を追う形ですが、勢いの良さでは見劣りがします。一方、皐月賞を快勝したソールオリエンスが120ポンドと3歳馬としては、目下のところ世界一に推されました。英2000ギニーを文句なく押し切ったフランケル産駒シャルディーン、ケンタッキーダービーを鮮やかに差し切ったカーリン系グッドマジックの初年度産駒メイジがともに119ポンドだったことを考えると、相当に高い評価に感じられます。桜花賞を次元の違う脚で突き抜けたリバティアイランドは116ポンド評価ですが、牝馬アローワンス(減量)4ポンドを勘案すればソールオリエンスと同等の実力の持ち主と考えることもできます。このあたりも、イクイノックス同様に世界トップレベルに君臨し続けることを見守りたいと思います。