2023.05.04
世界は“競馬曜日”
ゴールデンウィークも酣(たけなわ)、各地の観光スポットや繁華街は大賑わいのようです。気持ちの良い薫風が吹き抜ける季節を迎えた競馬場も、ファンが待ちかねたクラシックシーズンに突入しました。北半球各国では5月の声を聞くと「ギニー」レースが幕を切って落とします。月明けの5月1日にはイタリアで牡馬の「2000ギニー」、牝馬の「1000ギニー」が口火を切って施行されました。昨年後半から世界中を巡り歩いて「ラスト・ライド」行脚を続けているランフランコ・デットーリ騎手も、故国のクラシックに参戦して2000ギニーを圧勝。もう一方の1000ギニーもイタリア出身のクリスチャン・デムーロ騎手が楽勝して、イタリア人二人が文字通り故郷に錦を飾っています。そして週末は、イギリスの聖地ニューマーケット競馬場でのギニーシリーズ。土曜の2000ギニーはディープインパクトの忘れ形見オーギュストロダンが大本命に推されています。天国のディープに素晴らしい報告ができると良いのですが…。土曜はアメリカのクラシック第一関門・ケンタッキーダービーもおこなわれます。もう競馬三昧の週末が楽しめそうで、ワクワクが止まりません。
さて、話題を日本に戻すと、北の馬産地・北海道の門別競馬場では、全国に先駆けて早くも2歳戦で盛り上がりを見せています。昨日(5月3日)は、いかにも馬産地らしい番組企画「新種牡馬産駒限定」の括りで新馬戦(フレッシュチャレンジ)がおこなわれました。1枠から8枠まで出走馬すべてが今年デビューのフレッシュサイアーの産駒という趣向。“競馬好き”にはたまらない一番です。
今年デビューする新種牡馬は37頭の中から9頭がエントリーし、1頭が取り消して8頭のフレッシュサイアーの産駒たちがゲートインしました。種付料400万円でメンバー中のトップを誇るカリフォルニアクロームは、ケンタッキーダービー、プリークネスSの米二冠を制し、古馬になってもしっかり走り続けた近年の名馬です。一方、種付頭数190頭と日高一の“モテ馬”にのし上がったモーニンは、仕上がり早さとダート向きのスピードが世界的な広がりを見せているヘネシー系の新進後継馬。同系の大物ヘニーヒューズが高齢なだけに、将来性と現状の手軽な種付料が人気を集めているようです。さらに主流血脈の座を固めつつあるディープインパクト系からは、ダービー馬ロジャーバローズ、皐月賞馬アルアイン、朝日杯馬サトノアレスと錚々たる顔ぶれが、それぞれ産駒をゲートインさせます。そのライバル・ハーツクライ系は三姉弟でG1合計5勝を挙げている良血ファミリーからジャパンC馬シュヴァルグランを送り込みます。現在リーディングの首位を独走するロードカナロア系からは、競走馬としては未完でしたが、母系も含めて血統の良さを買われたユアーズトゥルーリが早くもデビューします。馬産地競馬ならではの趣向と言えますし、新種牡馬産駒を一堂に見られるのは、牧場関係者などホースマンには貴重な機会でしょう。また、ファンにとっては引退して日もまだ浅い新種牡馬ゆかりの仔に会えるのは、競馬への愛着を深めてくれます。一度だけの単発ではなく、継続的に実施してもらえると嬉しいのですが…。
新種牡馬7頭を簡単にご紹介したのですが、勝ったのはどの馬でもありませんでした。レースは、キタサンミカヅキの仔キタサンヒコボシが素晴らしいスタートを決めると、そのまま馬群を引き連れ、直線で軽く追われるとアッという間に6馬身突き放して完勝を飾りました。父は交流重賞3勝などを挙げてNAR(地方競馬全国協会)年度代表馬にも輝いた名スプリンターでしたが、気性に難がありゲートも上手とは言えない“癖馬”でした。その仔の見違えるような素直なレースぶりには驚かされましたし、先々への大きな期待がグンと膨らみます。血統的にも「キタサン・ブランド」の良さを凝縮したような感じを受けます。ヒコボシに流れる「サクラバクシンオー」×「キングヘイロー」の組み合わせは、父キタサンブラックの母父サクラバクシンオーと母シャトーブランシュの父キングヘイローの血統構成を抱える無敗の皐月賞馬ソールオリエンスと相似の関係にあります。思わぬところから“大物候補”が出現したものです。ワクワクさせられますね。
陽気の良さも手伝ってくれたのでしょうか。この日、門別競馬場に詰めかけた競馬ファンは、コロナ蔓延より3年も前の2017年に記録した3304人の入場人員レコードを塗り替える3546人だったそうです。もともと馬産地ならではの独創的な番組企画と競走馬ラインナップをアピールポイントに、ネット馬券を活用した全国ファンの集客に努力を重ね、事業的にも成長してきた競馬場ですが、やはりファンの直の声援はサラブレッドもジョッキーや関係者といった人間も奮い立たせます。先週末の天皇賞(春)も久しぶりに見るたくさんのファンの姿に、ちょっと感動させられました。
「競馬場に行こう」そんな合言葉が、当コラムのキャッチコピーだろうと思っています。