2023.04.27
ジャパニーズ・コンテンツの底力【中】
『ジャパニーズ・コンテンツ』は、お家芸のマンガやアニメ、ゲームなどの分野のみにとどまらず、最近では大谷翔平選手が先頭で牽引するWBCなど野球のフィールドで世界トップレベルのプレーで人々の関心を釘付けにし、競馬場ではターフのみならずダートでも世界の頂上を巡って鎬(しのぎ)を削っています。日本のホースマンや競馬ファンには、憧れ以外の何ものでもなかったケンタッキーダービー。そのステージに2頭、運が良ければ3頭も揃ってゲートインするという信じられない現実が近づいています。この怒涛のような勢いが、ほんの一時の“瞬間芸”で終わるのか、文字通りの“お家芸”として深く根付いていくのか、今がまさにその勝負の時かもしれません。しかし競馬で言えば、競馬場だけではなく、牧場をはじめ様々なシーンから『ジャパニーズ・コンテンツ』の頑張りが伝わってきます。
種牡馬の世界もそのひとつです。ディープインパクトのラストクロップの超大物オーギュストロダンが、間近に迫った英2000ギニー、英ダービーの双方で飛び抜けた1番人気に支持されているのはご存じの通りですが、二冠制覇の関門を無事にクリアすれば、エイダン・オブライエン調教師はニジンスキー以来53年ぶりとなる三冠挑戦の決意を固めているようです。ニジンスキーは、バリードイル(クールモア専用調教場)の先代専属調教師ヴィンセント・オブライエン師の管理馬でした。二代目エイダン師にとっては、どうしても超えなければならない壁なのでしょう。日本発コンテンツのアイルランドバージョン、その半世紀の一度の桧舞台を目撃できる幸せを噛み締めたい今年の秋です。
この『ジャパニーズ・コンテンツ』旋風は、勢いを増しながら世界中に波紋のように次々と広がっています。昨年はイタリアにトレードされたディープインパクト系アルバートドックが、同国リーディングサイアーに輝いたという嬉しいニュースが舞い込んでいます。ニュージーランドからは、ディープインパクト系サトノアラジンの目が飛び出るような“サクセスストーリー”が伝えられています。シャトルで出かけて2世代がデビューした今季はビッグレースを立て続けに制覇して大ブレイク、評判はウナギ登りで22・23シーズン1.25万NZドル≒104万円の種付料は、9月にスタートする23・24シーズンは4.5万NZドル≒375万円へと3.6倍に跳ね上がります。日本での種付料は100万円ですから、現地における評価の高さを実感できます。“オセアニア太閤記”、果たしてどこまで階段を上り詰めるのでしょうか。
スタッドイン先を模索していたヴァンドギャルドは、どうやら南米ブラジルから請われて海を渡るようです。ブラジルでは昨年まで日本生産馬アグネスゴールドが3年連続でリーディングサイアーの座を独占していました。ご承知のようにアグネスゴールドは早逝したアグネスタキオンとは同じ年に同じ社台ファームで生まれ、同馬主・同厩舎で鞍上も同じ河内洋騎手が手綱を執っていました。タキオンは亡きサンデーサイレンスの最初のチャンピオンサイアーに君臨し、競走馬時代と同じように一足早く頂上を極めました。ゴールドは日本、アメリカ、ブラジルと渡り歩き、派手さはなかったのですが、気が付いてみればブラジルのみならずアルゼンチンやチリなど南米全体に大きな影響力を及ぼす大種牡馬に成長していました。生産者の社台ファーム、馬主の渡辺孝男さん、調教師の長浜博之さん、双方の主戦騎手だった河内洋さん、誰もが想像もしなかった25年後だったことでしょう。
同胞ゴールドに先駆けながら早逝したタキオンは、種牡馬としては全体に気性難と紙一重の負けん気の強い仔が多く、また脚元に脆(もろ)さを抱える産駒が少なくありませんでした。明け3歳のシンザン記念を舞台に、後の三冠馬オルフェーヴルと桜花賞馬マルセリーナをまとめて打ち破ったレッドデイヴィスのように、優秀な仔の多くが騸馬となるなど、残念ながらタキオンの父系はほぼ断絶しましたが、母の父としてノンコノユメ、ワイドファラオなどダートの強豪を輩出しており、その分野で今後も血が繋がって行きそうです。
出脚ひと息だったゴールドは、後継に関してはアルゼンチンとアメリカ両国でG1馬となったアイヴァーが母国で種牡馬入り。同じサンデーサイレンス系のヴァンドギャルドがブラジルに錦を飾る形で迎えられました。後継種牡馬として南米全体から大きな期待を寄せられているのでしょうね。現役時代はG1勝利には縁がありませんでしたが、前人未到の3連覇を達成したイギリス調教馬ロードノースが主役を張ったG1・ドバイターフ、その3戦すべてで脇役ながら勝ち馬以上に鮮烈な印象をメイダンのターフに刻み込んでいます。騸馬ゆえ種牡馬に縁のないロードノースの思いを背負ってのブラジル入りです。