2023.04.14
日本調教馬の現在価値
IFHA(国際競馬統轄機関連盟)が、各国ハンデキャッパーなどの協力の下に、国際G1レースを中心とした上級馬たちのレーティング推移を時々刻々に追跡する「ロンジン・ワールドベストレースホース・ランキング」の最新版が発表されました。今回は今年1月1日から4月9日までに行われたレースを対象にしています。前回は3月5日にアップデートされましたから、それ以降のドバイワールドカップデーなどが主要なトピックスになります。時系列的には4月上旬に行われ、日本調教馬ユニコーンライオンが参戦したオーストラリアのクイーンエリザベス2世Sなど「ザ・チャンピオンシップス」シリーズや、地方・大井所属のマンダリンヒーローがダート総本山のアメリカをビックリさせたサンタアニタダービーなど「ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー」シリーズ、さらに日本の大阪杯、桜花賞といったあたりまで視野に収めて、世界の一流馬の動向を克明に俯瞰しています。
もうお分かりのように、今回のランキングは日本調教馬の武勇伝がストーリーの骨格を形成した1か月のドキュメントといった趣向になっています。ドバイシーマクラシックを余裕で逃げ切ったイクイノックスに、129ポンドのレーティングが与えられ世界一の王者に推挙されています。2位は前回の発表で1-2-3の上位独占を果たした香港調教馬ゴールデンシックスティの125ポンドですから、その差4ポンドとちょっと水を開けられた感じです。しかし彼はメキメキと実力強化して来た若武者勢を次々と返り討ちにして、目下ほぼ無敵状態です。今月末の「香港チャンピオンズデー」のクイーンエリザベス2世C(芝2000m)には、日本からジェラルディーナ、ダノンザキッド、ヒシイグアス、プログノーシスが遠征しますが、かなり厚い壁になりそうです。安田記念参戦の意向もあるそうで、マイル戦となれば威力倍増のタイプですから、アッサリのシーンまであるかもしれません。
香港最強馬に続く3位にランクされたのは、これも日本調教馬タイトルホルダーの124ポンドでした。今回は先だってのG2・日経賞(芝2500m)が評価対象でしたが、今後の天皇賞(春)、宝塚記念と連覇を目指す偉業達成が控えています。3000mを越すマラソンレースは評価が渋くなりがちですが、他を寄せつけない圧勝でハイレートを掴み取ってくれるでしょう。さらに日本馬には絶対に無理だと思われていたダート分野で、ドバイワールドカップの燦(きら)めく歴史的大金星を挙げたウシュバテソーロが、122ポンドでダート世界一のレーティングに叙されています。前出のマンダリンヒーローと併せて、本当に夢のような出来事です。このウシュバの“一発芸”にとどまらず、ダート部門ではパンサラッサ、カフェファラオ、ジオグリフなどのサウジカップ組に加えて、3歳のデルマソトガケまでランクインしているのには、正直ビックリしました。いつの間にか日本は“ダート大国”にのし上がったようです。まぁ、これは贔屓目に見ても“瞬間風速”と考えた方が妥当だと思うのですが…。
ただ、弱点みたいなものもランキングには見え隠れしています。アジアで無敵を誇ったロードカナロアが種牡馬入りしてからというもの、スプリント戦線での不振が目立つようになり、回復の兆しも見えない現状です。中距離では大阪杯のジャックドールが118ポンドでランクインしていますが、純日本風というか、精緻精巧な芸術的ペース配分で逃げ切るという見え方は、ちぎった着差の大きさが強さの象徴といった西欧的価値観からは評価されにくい一面があります。ランキングが全てではありませんから、我が道を行けば良いと思うのですが、世界競馬の中枢とも言える中距離カテゴリーで威勢を見せられないのは寂しいですね。オーストラリアのクイーンエリザベス2世Sを舞台に、逃げ粘るユニコーンライオンを並ぶ間もなく疾風のように交わし去ったドバイオナーの凄み漂う末脚を見せられると世界は広いと思わされます。今回の栄光に包まれたランキングを糧に、様々なカテゴリーを横断して、更に強い日本調教馬の姿を見たいものです。