2023.04.12

千載一遇の大逆転劇

ドゥラメンテの怒涛の進撃が止まりません。先週も土曜にサウンドビバーチェがG2・阪神牝馬Sを好位から鮮やかに抜け出したかと思ったら、日曜のクラシック第1弾G1・桜花賞では一本人気を背負ったリバティアイランドが、4コーナーではほぼ最後方の位置から、内伸びが顕著な馬場の大外に進路を定めると、レース上がり34秒5で完全に前が残る流れを、何と32秒9の神速の切れ味で馬群を真一文字に突き抜けて見せました。異次元としか言いようのない脚勢には、ただ息を呑むばかり。言葉もありません。これでドゥラメンテの今季は重賞5勝目。ドンと賞金を積み上げてリーディングサイアーのランキングは、先週までの5位からハーツクライとモーリスを抜き去ったばかりか、帝王ディープインパクトまで撃墜、アッという間に2位まで急浮上しました。ここまでは層の厚いロードカナロア軍団が他を寄せ付けない独走体制を築いていますが、クラシックシーズン幕開けで高額賞金レースが目白押しですから、一発大逆転ドラマが飛び出さないとも限りません。

ドゥラメンテは現3歳馬までの3世代が競馬場で走っていますが、際立っているのは重賞16勝と“ここ一番”での強さです。中でも16勝中の半分の8勝がG1レースというのは驚異です。レベルが上がれば上がるほど、ハードルが高くなれば高くなるほど、ポテンシャルの炎を激しく燃え立たせるハートの熱さには、惚れ惚れさせられます。こうした精神性をベースに、一頭一頭それぞれが他馬にはない個性というか、魅力というか、一芸に抜きん出た強みを秘めているのですから、その爆発力は多彩な分野に広がっていきます。先頭バッターとも言うべきタイトルホルダーは、長くいい脚を持続できる強みを全開させて長距離の分野で無双していますが、先週のリバティアイランドのように稲妻のような電光石火の瞬発力の持ち主もいます。スターズオンアースのようにレースを重ねるごとに輝き方を変化させていく成長力の権化も魅力です。ダートの鬼もいれば、小倉の鬼とか特定の競馬場で馬が変わるタイプもいます。リーディングサイアーとしての要件をこれほど満たしている馬も、そう多くはいないでしょう。残された産駒数はわずか2世代と少なく、デビュー済みの3世代を加えても5世代限りです。しかし何かをやってくれそうな雰囲気を漂わせているのも確かです。「千載一遇」という故事があります。千年に一度しか巡り遇えないような絶対的なチャンスのことです。リバティアイランドの奇跡の神脚を見てしまうと、一世一代の大逆転劇がドゥラメンテを待っているような気がしてきます。

今週のクラシック第2弾・皐月賞には、タッチウッドがドゥラメンテ産駒代表として追加登録料200万円を支払って、何とか出走へと漕ぎ着けました。キャリア2戦と若さを残す馬で粗削りですが、その常識破りの破天荒ぶりに底知れない伸びしろが薫り立っています。“ドゥラメンテらしい”と言えば、何ともドゥラメンテらしいのが魅力ですね。ご承知のように前走のG3・共同通信杯ではスタートを失敗して立ち遅れ、まぁここまでは良くあることです。しかしタッチウッドは先行馬群の外をまくり気味に進出し、先頭に躍り出ます。見た目にはちょっと無謀と思えるのですが、馬の気分に任せた外国人騎手らしい判断だったのでしょう。鞍上のテオ・バシュロ騎手は、伝統的に名人・達人が覇を競うハイレベルのフランス騎手界で、近年急速に脚光を浴びている新進気鋭の注目ジョッキーです。この馬の気分を大事にする騎乗法は、ヨーロッパなどでは良く見かける光景です。この手綱捌きに応えてタッチウッドは、最後まで生き生きと伸び伸び駆けて後続の追撃を退けながら、ゴールではクビ+ハナのミクロの2着争いを凌ぎ切って見せます。

皐月の晴れ舞台では、望めるものならデビュー戦のように馬群に揉まれないでジワッと先手を奪える外枠だと、気分良く力が出せそうです。もっぱらトリッキーと評される中山コースですが、ゲートを出ると長いホームストレッチを淡々と駆け抜ける2000mなら、内外均等に不利なくレースに臨めます。中山最良のフェアなコースです。有名なのは、今や“伝説”となった97年のサニーブライアン、18番枠からの気合一発の逃げ切り劇です。昨年の2着馬イクイノックスは、18番枠から無理せずユッタリ徐々に馬を内に寄せながら、ジックリ脚を溜めています。脚質や戦法に関わらず馬の個性に沿った自在のレース運びができる“魔法の枠”と言えそうです。これから始まる「千載一遇」ドラマの顛末(てんまつ)をたっぷり堪能したいと思います。