2023.04.10

今度こそ!マンダリンヒーロー

大井・藤田輝信厩舎から太平洋を超えて、ダート競馬の聖地アメリカに渡ったマンダリンヒーローが、G1サンタアニタダービー1番人気馬を向こうに回して、堂々たる一騎打ちの末に競り落として前に誰もいない世界へと突き抜ける世紀の大番狂せを、危うく演じるところでした。イクイノックスのシーマクラシックの別世界を翔ける一人旅、ウシュバテソーロが大向こうを唸らせる乾坤一擲(けんこんいってき)・疾風怒濤(しっぷうどとう)の追い込みも日の丸サラブレッドの価値を大いに高めてくれたものですが、マンダリンヒーローの激走もそれに劣らない感銘が沸々と湧き立ち、それが心の奥まで染み込んでいくような感慨をもたらしてくれました。父シャンハイボビーは、ストームキャット系ハーランズホリデーの血を受けて、デビュー戦からBCジュベナイルまで5戦5勝で不敗の2歳チャンピオンに輝いた米国流の早熟系スピード馬でした。種牡馬としてはアメリカとブラジルを往復しながら供用され、日本移籍後にデビューした産駒がとくにブラジルで大活躍しています。日本には19年にアロースタッドにトレードされたのですが、19年は同じハーランズホリデー系のイントゥミスチーフが全米リーディングの頂点を極めた年でもあります。彼はその後も4年連続して王座を守り続けています。もう1年遅ければ、日本へのトレード話が実現しなかったのは確実だったでしょうね。マンダリンヒーローのようなドラマティックなエピソードに包まれた馬には、不思議な縁がついて回るものですね。

不思議な縁と言えば、サンタアニタダービーもその一つです。日本人ファンにとっては、サンデーサイレンスが勝ったレースとして強烈に印象づけられ、最近ではデビュー3戦目でここを楽勝したジャスティファイが無敗の三冠ロードへ歩みを進めた第一歩として有名です。日本調教馬がサンデーサイレンスと同じレースを走るなどと考えても見ませんでした。ダート競馬においては本場アメリカと日本馬の間に、超えるに越えられない広く深い実力の溝が、歴然と横たわっていると考えられていたからです。マンダリンヒーローは、母ナムラナデシコがその父フジキセキを通じてサンデーサイレンスの孫娘ですから、日本競馬が世界レベルに追い付き追い越すのに、間違いなく最大の功労者の一頭である偉大なサンデーサイレンスの血を、その体内に携えて海を渡ります。最後の力を振り絞って粘り込みを図るプラティカルムーヴを追って、追って、追い詰めたのは、思い出のレースに込めた曽祖父サンデーサイレンスの執念だったのかもしれません。

通常の年であれば、ケンタッキーダービー出走の優先権をランキングするダービーポイントは、今回のマンダリンヒーローが獲得した40ポイントあれば当確とされて来ました。ところが今年からルールが微修正されました。従来は指定レースの4着までに、1着100ポイント、2着40ポイント、3着20ポイント、4着10ポイントが配分されました。今年からは1着、2着の上位組は変わりがありませんが、3着30ポイント、4着20ポイント、5着10ポイントと、敗退組は従来の10ポイント増しの恩恵に預かっています。ポイントレースからの脱落を防ぎ、最後まで望みを持たせポイントレースを盛り上げるアイデアなのでしょう。それはそれで良く分かるのですが、これによりポイント争いのボーダーがグンと上がるのは確実です。今年は例年なら悠々“当確”のはずだったのに、一転して上位勢の“回避待ち”と悲運に見舞われた40ポイント組が、マンダリンヒーローを含めて実に4頭もいます。ルールだから仕方がないのですが、現実は冷酷で無情なものですね。

もう一完歩あれば態勢は完全に逆転していた!誰の目にも、ハッキリそう見えたゴールライン上だっただけに、馬主さん、藤田輝信調教師、木村和士騎手など陣営の皆さんにはお気の毒で仕方がありません。しかしタラレバは無縁の勝負の世界、心機一転を期すしかありません。アメリカンクラシックの例年の通例は、前哨戦の段階からサバイバル(生き残り)レースなのですが、本番の一冠目ケンタッキーダービーはフルゲートでも、二冠目プリークネスS、三冠目ベルモントSとステージが進むに連れて頭数が減っていきます。これでノーチャンスということで終わりません。マンダリンヒーローにはプリークネスSで曽祖父サンデーサイレンスとの父系制覇、ベルモントSなら無念の2着で三冠達成を逃した父系の仇討ちドラマが待っています。ぜひダート競馬最高峰での勝利の証しを、今度こそ世紀の大番狂せの実現を、大井で待つたくさんのファンが楽しみに待っています。