2023.03.20
競馬シルクロードの価値観
早いもので今週末は、世界中の“競馬好き”の風物詩「ドバイワールドカップ・デー」が華々しく開幕を迎えます。コロナ禍に襲われた数年間は、開催中止や無観客開催など厳しい試練に見舞われました。ジョッキーや厩舎スタッフは自由な往来を妨げられ、馬をケアするという本来の仕事をやり遂げるにも、大変な苦労を強いられました。それを思えば、日本からの遠征馬が総勢27頭と史上最高の出走頭数を送り込むことができた今年は、「無事是名馬」ならぬ「無事是競馬」と言うべきか、本当に「無事」であることの偉大さを感じさせられます。大谷選手やダルビッシュ投手が見事な活躍を続けるWBC世界野球の「サムライジャパン」が話題を集めていますが、サラブレッドの「日の丸ジャパン」でも大いに盛り上げてくれたら嬉しいのですが。
今回のドバイは、ワールドカップ、シーマクラシック、ドバイターフ、ゴールデンシャヒーンの4レースが日本国内で馬券発売されます。日本調教馬が大暴れしたサウジでは馬券発売がなかっただけに、ファンの力コブもひときわ隆々と盛り上がり固く引き締まっています。しかし残念なことに、ドゥラエレーデなどのUEAダービー、バスラットレオンが連覇を狙うゴドルフィンマイルなどは発売対象外となりました。日本馬が出ていれば馬券が当たるものではないでしょうが、応援馬券も握りしめられないのは切ない気分です。法律的には「ギャンブル(賭博)」というカテゴリーに括られる競馬は、いろいろな縛りが存在しており、現場だけでは何ともならない難題が山積しているのでしょう。ファンが望むから馬券発売レースを簡単に増やすわけにはいかない事情もあるようです。しかし何とか、ファンが前向きに参加できるような仕組みを生み出す知恵が待たれてなりません。
3月のドバイの前に2月にサウジアラビアが組み込まれて、競馬の空白時期な色合いもあった早春競馬の趣きが大きく変わって来ました。それは新たなチャンピオンロードの発掘です。キングアブドゥルアジーズ(サウジアラビア)からメイダン(ドバイ)へ、そしてその道は砂漠を横断し海を越えて、ランドウィック(オーストラリア)やシャティン(香港)へと続いています。日本のサラブレッドにとっては新しい道が切り拓かれました。悠久の古代に切り拓かれたシルクロードのように、文明と文明が往き来して新しい文明を生み出した壮大な歴史ドラマを連想させます。こうした新しい動きは、サラブレッドたちの行動様式にも大きな変化を促すようです。サウジカップデーは今年で創設4年目ですが、それぞれのレースの個性や特性に学んで、矢作芳人調教師はドバイターフ勝ちの芝G1馬パンサラッサを敢えてダートに挑戦させて、見事に金的を射止めました。これはほんの一例ですが、世界観が180度ひっくり返るようなものの考え方や価値観が変転しています。芝という“伝統的な文明”、ダートという“もう一つの文明”、それぞれが新しい道の誕生によって、入り混じり変化を続け“第三の文明”ともいうべき価値観を生み出したのです。
今回、注目しているのはUEAダービーにエントリーしているドゥラエレーデです。ご承知のように咋暮のG1ホープフルSを制覇した芝の2歳チャンピオンです。普通ならバリバリのクラシック有力馬として、今ごろは1カ月後に迫ったホープフルと同コース同距離の皐月賞に備えているはずでした。しかし池添学調教師はUEAダービーからケンタッキーダービーへと続く“もう一つのチャンピオンロード”を、ドゥラエレーデとともに歩む目標に据えました。地方所属馬限定の東京ダービーが今年で最後となる大井では、2歳チャンピオンのマンダリンヒーローがそのラストチャンスに見向きもしないで、サンタアニタダービーへの参戦を表明しています。その先は無論ケンタッキーダービーでしょう!サラブレッドとして生まれたからには自国や所属団体のクラシックを目指すべき、そんな200年を超える競馬体系の歴史を変化の波が洗い始めています。