2023.03.14

カウントダウンが始まった!

日曜中山のリステッド東風Sは、ラインベックが好位から押し切って、久しぶりに勝利の美酒を飲み干しました。三冠牝馬アパパネと無敗の三冠馬ディープインパクトの間に生まれた“三冠の申し子”のような良血馬で大きな期待をかけられて来た馬でしたが、さすが決めるところはビシッと決める子でした。父ディープインパクトにとってはJRA通算2700勝目というメモリアルヴィクトリーです。実はラインベック、1年半ほど前に阪神の西脇特別を勝った折はディープ2200勝目でしたが、こういう節目に順番が回って来るヒキの強烈さと、千載一遇のチャンスをモノにする強運は立派です。

ディープインパクトを世に送り出してくれた天才種牡馬サンデーサイレンス、その息子たちや娘たちが競馬場から姿を消したとき、彼のJRA通算勝利数は2749勝までカウントされていました。空前絶後の数字でした。これを超えられる種牡馬が、今後100年は現われないと誰もが思ったものです。なにしろ、その時点で断然の歴代トップだったノーザンテーストの“不倒不滅”と讃えられた生涯記録が1757勝でしたから、ほぼ1000勝にもなる気の遠くなるような大差がありました。しかし歴史の歯車は、人間の想像を遥かに超えてスピードを加速させながら回ります。ジャパンCが創設され日本馬がまったく歯の立たない時期が続いた頃、外国馬には百年たっても勝てないと絶望気分が日本中を覆い尽くしていました。しかし日本のホースマンは不屈でした。10年もしないうちに五角以上の勝負を挑めるようになり、そのうち東京コースで走る限り外国馬は勝てなくなりました。その牽引役を果たしたのがサンデーサイレンスの血でした。

偉大な父からバトンを受けたサンデーサイレンス2世は、その多くが父の傑出した才能を受け継ぎ、それぞれ個性に富んだ競馬ぶりで父の偉大な頂きを目指しました。1000勝越えは大種牡馬の証(あかし)とも言える金字塔でしょう。現在までにこの金看板を背負ったSS2世は、ディープインパクトを筆頭にフジキセキ、ハーツクライ、ダイワメジャー、マンハッタンカフェ、ステイゴールド、ダンスインザダーク、ゴールドアリュールまで8頭に達します。彼らの合計勝利数は1万勝を軽く越しています。惜しくも1000勝に届かなかった“次点組”はアグネスタキオン、ネオユニヴァース、スペシャルウィークのSS産駒がベスト3を占めています。

ほとんど余すところがないほど、日本競馬の歴史という歴史を塗り替えた偉大なサンデーサイレンスの2749勝目、最後の1勝は13年ほど前のことになります。2010年1月5日の中山金杯は、直線の急坂を横一線で登り切った馬群がゴールにクビ+ハナ+ハナ+ハナで5頭が一団で雪崩れ込んだ大乱戦を、切れ味一閃!鮮やかに差し切ったのが8年前に亡くなったサンデーサイレンスの遺児アクシオンでした。アクシオンの勝負強さも大したものですが、最後の勝利を重賞で飾るサンデーサイレンスの王者の誇りは眩しいほどです。この2010年という年は、ディープインパクトの初年度産駒が競馬場に姿を現わしています。今から思えば、旧王者と新王者がすれ違った一瞬でした。あれから13年、到達するのは不可能と誰もが思った“2700勝の砦”に、拍子抜けするほどアッサリ辿り着く後継馬が現われ、遂に不滅の2749勝へのカウントダウンが始まりました。ラインベックの記念碑樹立の興奮が冷めない直後、中京のG2金鯱賞をプログノーシスが届かないような流れと位置から直線を真一文字に突き抜けました。2701勝目を早くも実現しました。競馬のことですからゴールするまで分かりませんが、無事なら年内の早い時期に、サンデー越えの偉大な瞬間をこの目で見られるでしょう。そこまで1勝また1勝を噛み締めて味わえる幸せに、どっぷり浸りたいと思います。