2023.02.28

サイアーラインの命運

日曜のG3阪急杯のプロローグ(序幕)として行われた3歳OPクラスのLマーガレットSは、イギリスに生まれ極東の地で一時代を築いた麒麟児テスコボーイに端を発し、サクラユタカオー、サクラバクシンオー、ビッグアーサーと内国産種牡馬の血を3代繋いで誕生した4代目のビッグシーザーとブーケファロスのワントゥー決着を果たしました。一口に「4代」と言いますが、それが途切れず継承されてゆくのは簡単ではありません。サイアーラインという観点から見れば、メジロアサマ・メジロティターン・メジロマックイーンの“内国産3代”による父・仔・孫の天皇賞制覇が有名ですが、残念にも種牡馬としての父系は途絶え、オルフェーヴルやゴールドシップなどステイゴールド系種牡馬の母父にマックイーンの名を残すのみとなっています。“4代目”という存在は、登頂を拒む難攻不落の絶壁のようにそびえ立っています。

テスコボーイは、今で言えばディープインパクト・ロードカナロア・エピファネイア級のスーパーサイアーでした。JRAが輸入してJBBA静内に寄贈された経緯もあり、日高の生産者に手頃な種付料で解放されたため、「お助けボーイ」の異名で有り難られと伝えられています。武豊騎手のお父さんの武邦彦さんを背に近代競馬の扉を押し拓いたキタノカチドキやトウショウボーイ、不幸にも早逝したテスコガビーなど不朽の名馬を送り出しています。サクラユタカオーもそうした特別な1頭として記憶される名馬でした。祖母スターロッチがオークスと有馬記念を勝った名牝で、良血らしい気品を漂わせ、豊かなスピードに恵まれて、毎日王冠と天皇賞(秋)をともにレコードで連勝した天性のスピード馬でした。考えてみれば、半兄サクラシンゲキはスプリンターズSを6馬身差で圧勝した快速馬。第1回ジャパンCの歴史的桧舞台で、直線坂上まで見せ場たっぷりに逃げまくった桃色の勝負服は今でも忘られられません。ユタカオーは種牡馬としての才能もテスコボーイから譲り受けたようで、名マイラーとして記録にも記憶にも残るエアジハードを輩出しています。同期の強豪グランスワンダーやキングヘイローを破って安田記念とマイルチャンピオンシップを勝ったスーパーホースですが、安田記念を父子制覇した後継ショウワモダンが、気の毒な事故死で血脈が断絶したのは残念です。血を繋ぐというのは、本当に難しいものです。

しかしユタカオー血統では先輩格のサクラバクシンオーが、競走馬としても種牡馬としてもダブルで非凡さを爆発させます。パワフルなスピードを武器に、スプリンターズS連覇を含み重賞5勝・OP4勝などを上げています。ちなみにG1昇格後のスプリンターズS連覇は、バクシンオーを皮切りにロードカナロアとレッドファルクスの3頭を数えるのみです。先輩2頭の大成功を思えば、ファルクスのブレイクもあながち夢物語ではないでしょう。さてバクシンオーの種牡馬実績は競走馬以上に優秀で、JRA通算1435勝は歴代ベストテン9位、内国産に限れば4位と傑出した輝きを放っています。ブルードメアサイアー(母の父)としても油が乗り切った感があり、昨季の年度代表馬イクイノックスや今季のクラシック有力候補ソールオリエンスを送り出したキタサンブラックが総大将、いささか地味ですがマニア好みの血統構成で注目されるキタサンミカヅキもスタッドインしています。

ご承知のようにバクシンオーからは、ショウナンカンプ、グランポリボス、ビッグアーサーなどが次々と後継候補に名を上げられ、孫世代のスタッドインも期待を集めて来ました。もう一歩で“内国産4代目”誕生の瞬間が訪れそうです。ビッグシーザー&ブーケファロスのワントゥーコンビを生んだビッグアーサーは、アロースタッドに迎えられて以来、毎年150頭前後の牝馬を集める人気者でしたが、目新しさが薄れた昨年は100頭を割り込んでイエローフラッグ状態に陥りました。しかし初年度のトウシンマカオ、2年目のブトンドールが重賞戦線で勝ち名乗りを上げる活躍で、今季は種付料50%アップの150万円と評価急上昇、既に満口の盛況です。ビッグシーザーのブレイクはさらなる追い風になりそうです。ブーケファロスは8戦2勝で一見ムラに映りますが、1200mまでなら2-2-0-0とパーフェクト連対を果たしています。この傾向は産駒全般に共通するもので、6ハロン戦なら信頼度の高さはピカイチかもしれません。1200mのカテゴリーから1ミリも出ないで戦い続けるビッグシーザーであれば尚更でしょう。ただ残念なことに、3歳OPクラスの1200m戦は、今回のマーガレットSの後は、5月下旬のG3葵Sまで待たないと番組がありません。番組改革は徐々に進んでいますが、5ハロンと6ハロンのレースが明確に分離され独立したカテゴリーとなっているヨーロッパに比べれば、まだまだ雑な感じで、工夫の余地が依然として残ります。開催日数やレース数が法律で縛られているなど、解決は簡単ではないのですが、知恵を絞る価値があるはずです。