2023.02.22

太平洋を渡った“世界クラスの大物”

先週のG3・ダイヤモンドSがマラソンG1天皇賞(春)への第一歩としたら、今週のG3・阪急杯はスプリントG1高松宮記念の前哨戦でしょうか?かつてロードカナロアが1400mのここから1200mの高松宮記念、そしてマイルの安田記念とカテゴリーを超越して、忙しく頂点を極めた王道への入口ですね。今年は1勝クラスから目下3連勝中と先週のダイヤモンドSのミクソロジーと瓜二つ、威風堂々の上がり馬アグリがエンジン全開で王者へのエントランスをダイナミックこじ開けるか?そこが見どころかもしれません。今年から日本にやってきた新進気鋭のカラヴァッジオの初年度産駒というのも目が離せない理由のひとつです。

カラヴァッジオは名伯楽エイダン・オブライエン師の薫陶を受け、期待に違わずデビューからロイヤルアスコットG1・コモンウェルスCまで無傷の6連勝で突っ走った天性の早熟馬にして快速馬で、父スキャットダディのストロングポイントを生き写しのように再現した馬でした。種牡馬入りして一昨年に産駒が競馬場デビューするや、いきなりテネブリズムがG1・チェヴァリーパークSを快勝するなど大ブレイク。堂々とヨーロッパ新種牡馬チャンピオンに輝いています。テネブリズムは一介の早咲き馬で終わらず、3歳時にはフランス遠征のG1・ジャンプラ賞でG1マルチウイナーに輝きました。早咲きの後、もう一度大輪を咲かせて見せる“二枚腰”の成長能力を秘めているようです。牡馬のマルジョームは独2000ギニーを制するなど、クラシックにも強いところを見せています。

それにしても、世界中のホースマンが目を見開いて注目し、胸を躍らせて期待するスキャットダディ血脈の有力後継馬が、こうもアッサリと日本にやってきたのは何故なのか?ちょっと不思議な気がしないではありません。スキャットダディはアメリカを拠点にシャトル先の南米でブレイクし、産駒のロイヤルアスコット遠征での大活躍などで一気に世界レベルのビッグネームにのし上がりました。しかし不幸にも早逝し、ロイヤルアスコット・ヒーローのノーネイネヴァーに後継が託されます。クールモアに買われた大黒柱ノーネイネヴァーは、初年度から期待に応えてテンソヴリンズが非凡なスピードを爆発させます。牝馬のアルコールフリーは、日本で言えばグランアレグリアのようにスプリントとマイルの二階級でG1勝ちを量産しました。テンソヴリンズは今季から産駒がデビューしますが、後続も順調に素質を伸ばしており、特に今年の明け3歳世代はひと際抜きん出た充実ぶりが光ります。振り返れば、昨年の2歳戦線は“ノーネイネヴァー祭り”で大いに盛り上がったものです。ブラックベアードがフランスにモルニ賞、イギリスのミドルパークSを連勝すると、アイルランドのフェニックスSを7馬身差で圧勝したリトルビッグベアは、124ポンドと近年最高のレーティングに評価されています。近年の最強2歳王者にしてクラシック第一弾・2000ギニーの大本命ですね。牝馬のメディテートはアメリカに渡りBCジュベナイルフィリーズターフで高らかに凱歌を上げます。全馬がクールモアの専属調教師エイダン・オブライエンの仕事でした。ちなみにスキャットダディの父ヨハネスブルグは同じエイダンに育てられ、ただ1頭でフェニックスS、モルニ賞、ミドルパークS、BCジュベナイルまで4カ国G1を連戦連勝しています。その曾孫たちが祖父の歩んだ道筋を上書きしてくれるとは思いがけないプレゼントでした。

ブラックベアードは故障もあってクラシックを待たずに早々と種牡馬入りしました。大物リトルビッグベアのノビシロも楽しみでなりません。スキャット2代目の昨年産駒デビューさせた三冠馬ジャスティファイは期待が大きすぎたのか、ちょっと物足りない結果に終わりましたが、スーネーションが圧倒的な勝ち上がり数を記録してスキャットダディ系の屋台骨を揺るぎないものへと築き上げています。前出テンソヴリンズなどを含め、スキャットダディ系の現状の陣立てと先々の展望を眺め渡すと、“飽和感”みたいな思いすら湧いてきます。カラヴァッジオに大仕事を期待することに変わりはありませんが、欧米での厳しい競争をかいくぐってG1にたどり着くのも大仕事なら、“未開の”競馬大国・日本に影響力の足跡を記すことも価値に変わりがないのでは?そう考えることも自然に思えます。

カラヴァッジオはクールモア本拠地のお膝元エイダン・オブライエン厩舎で育ちましたが、種牡馬としてはアメリカ拠点であるアシュフォードで繋養されています。アメリカ生まれで母系にアメリカ血統を色濃く抱え、ダート適性も期待されたのでしょう。しかし1年遅れで同じオブライエン厩舎から後輩メンデルスゾーンが入厩すると、雲行きがちょっと怪しくなります。彼は、兄に4年連続で全米リーディングサイアーに君臨する王者イントゥミスチーフを持ち、姉ビホルダーはG1を11勝もした絶対女王です。彼自身が“芝砂二刀流”の実績を残しており、ダートのG2・UAEダービーでは20馬身近くぶっちぎった底知れぬポテンシャルを秘めています。ダートのポテンシャルはメンデルスゾーンに軍配が上がったのでしょう。こうして太平洋を渡った“世界クラスの大物”カラヴァッジオの日本における可能性は?今週の阪急杯、そんな意味合いでも気掛かりで仕方がありません。