2023.02.21
ステイヤー無双
G3ダイヤモンドSはオルフェーヴル産駒のミクソロジーが、前走のOP万葉Sに続いて連続レコード駈け、2着ヒュミドールとともに父オルフェーヴルのワントゥーフィニッシュのゴールを決めました。これでオルフェーヴルは昨年暮れのG2ステイヤーズSのシルヴァーソニックも含めて、オープン級以上の超長距離レースを3連勝と無双ぶりを誇っています。このオルフェーヴルなんかもそうですが、超長距離というカテゴリーではステイゴールドを源流とする馬たちが、最高峰であるG1天皇賞(春)、その前哨戦のG2阪神大賞典をそれぞれ4勝するなど、ひときわ抜きん出た実績を残しています。ステイフーリッシュなどは、3200mのG2ドバイゴールドC、サウジ3000mのG3レッドシーターフHと海外のマラソンレースで輝いています。こうしたカテゴリーでステイゴールド系が強いのは、並外れて豊かなスタミナと疲れても勝負を諦めない根性に支えられているのは間違いがないでしょうが、それだけではない“隠し味”のような天賦の才能が秘めれているような気もします。
ヨーロッパのように1周3000m以上もある自然の要害のような広大なコースは別として、基本的にマラソンレースは、同じコースをクルクルと周回することで成り立っています。そのため、幾度となく通過するカーブでのコーナリングの上手下手、つまり機動性とか操縦性などの言葉で語られる本能的な器用さが勝負の行方を大きく左右したりします。ステイゴールドの血を引くサラブレッドたちは、トリッキーといわれる難コースほど強みを倍増させます。窮屈なコーナーを高速ターンできる天才的なコーリング技術が、なにものにも勝る強力な武器になっているからです。カーブのキツい内回りコースで行われる有馬記念や宝塚記念に、“異様なほど”強いのは、たぶんそのアドバンテージが働いているからでしょう。
しかし近代競馬の止まることを知らないスピード化の波は、多くのホースマンやファンに愛されて止まないマラソンカテゴリーを、レーシングカレンダーの片隅に追いやって行きます。最古のクラシックと尊敬され愛されてきたセントレジャーのステイタス(存在意義)が薄れ、いつのまにか“競馬の母国”イギリスでは「三冠」という言葉が死語となります。日本でも同様で、種牡馬になれない菊花賞馬や天皇賞馬が現れたり、短調に流れがちなレース内容では馬券売上げが低迷したりと、カテゴリー自体が存続の危機に脅かされています。こうした状況に、イギリスでは指定のマラソン番組シリーズの覇者に100万ポンド≒1億6000万円のボーナスを贈る「ステイヤーズミリオン」を創設、幸いにもストラディヴァリウスというスターホースも出現して、人気と勢いを盛り返しています。
日本でも地味ですが、徐々にステイヤー路線へのテコ入れが進んでいます。重賞新設となると、レーティングの問題や国際認可の関門など簡単には行きませんが、昨今では準オープンの3勝クラスで模様替えの形ながら、秋に3000mの古都S、3200mから3000mに距離変更して今週行われる松籟Sと、頂点の天皇賞(春)を目指すステイヤーズSや阪神大賞典へのステップレースが整備され始めています。昨秋の古都Sを勝ったゴールドシップ産駒プリュムドールは直後のステイヤーズSで2着に追い込んで銀星を挙げ、そのレースを制した前出シルヴァーソニックは一昨年の松籟Sでステイヤーとしての資質を開花させています。こうした地道な取り組みが、やがてマラソンファンの裾野を広げ、その裾野の広がりが日本の天皇賞(春)を、いつの日か、アスコット・ゴールドCやグッドウッドC、フランスのカドラン賞、オーストラリアのメルボルンCなどと肩を並べる最高峰レースへと導いてくれるのでしょうね。楽しみでなりません。