2023.02.20
世界第1号のG1メダル
「G1コレクター」という言葉があるとしたら、その獲得レースの先頭を熾烈に競い合っているのは、今世紀に入る前後から今日に至るまで、クールモアとゴドルフィンの二大馬主組織で決まりでしょう。通算170勝を超えるG1勝利をモハメド殿下に捧げた“神調教師”サイード・ビン・スルールは、“神騎手”ランフランコ・デットーリとともに、例えば“神の馬”ラムタラのようにデビュー戦を飾ると2戦目は英ダービー、3戦目にキングジョージ6世&クイーンエリザベスS、そしてラストランとなった凱旋門賞まで4戦4勝と信じられないドラマを次々と生み出してみせました。
一方のクールモアは、大種牡馬サドラーズウェルズのオーナーであり、その父ノーザンダンサーの多様性に富んだ血の継承と伝承に情熱を燃やすロバート・サングスター氏などが巨匠ヴィンセント・オブライエン調教師とアイルランドの片田舎バリードイルにこもって、優秀なサラブレッドを優秀な種牡馬に育て上げるビジネスモデルに忠実に基づく馬づくりに精を出します。ゴドルフィンが活発な活動を始めた頃には、クールモアは世代交代して若返りを図ります。若きジョン・マグナー氏を総帥に戦略を進め、エイダン・オブライエン調教師が馬づくりの指揮を執ります。彼らが推し進めたモンスター種牡馬ガリレオの大成功は、ゴドルフィンの優勢を一挙に逆転するほどで、世界のホースマンにショッキングなインパクトをもたらします。
ここ最近はクールモアのアドバンテージを追って、ゴドルフィンが戦略的な馬づくりに踏み切り、世界の競馬シーンでクールモアを圧倒する場面がしばしば見られるようになりました。昨年はイギリスのクラシックをゴドルフィンのロイヤルブルーの勝負服が席巻し、シーズン終盤のアメリカのブリーダーズカップシリーズでも威風を吹き抜かせました。その旗手としてリーダー役を遂行した専属調教師チャーリー・アップルビー師はイギリスのリーディングトレーナーに、主戦騎手ウィリアム・ビュイックはリーディングジョッキーに輝いています。
この働きでゴドルフィンは、オーストラリア、ドバイなどを含めて世界中で30近いG1勝利を飾っています。やや不審だったクールモアとはダブルスコアの差です。
ご承知のように、ゴドルフィンはヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなどの馬産大国を中心に馬づくりネットワークを張り巡らし、世界競馬のリーダーシップを掌握しています。宿敵クールモアとの勝ったり負けたりは、今後も長く続いていくのでしょうが、気になるのは日本における取り組みです。これまで日本では、地方競馬のスターホースだったフリオーソなどが活躍しています。しかしJRAでは昨日のフェブラリーSのレモンポップの勝利が4つ目のG1勝利ということになります。ファインニードルが高松宮記念とスプリンターズSを、タワーオブロンドンがスプリンターズSを勝っているのが全部です。陣容の充実ぶりや世界各地での華やかな活躍ぶりを思えば、いささか物足りない気がします。内容的にもスプリントとダートでは少なからず寂しいですね。とは言え、考えてみればレモンポップの金星は、今年のG1勝利においては、なんと世界第1号です。ゴドルフィン軍団の先陣を切って一番槍となりました。“日の丸ゴドルフィン”、そんな精鋭集団の出番がすぐそこに来ているのでしょうか?ラムタラのような“神ドラマ”の舞台が、ここから広がって行くのでしょうか?