2023.02.10

ロベルト系の明暗【後】

スクリーンヒーローとモーリスの父子が、重賞レースで飛び抜けた勝負強さを見せています。JRAの重賞レースは今年が明けて先週までに13レースが行われていますが、この父子はそれぞれ2勝づつ、アベレージにすると全体の3割を越えるハイレベルを示しています。ロベルトの系統は、単なる勝負強さでは終わらないで、ここ一番の大勝負に異常なほどの強みを発揮するのが特徴です。ロベルト自身のエプソムダービーでの一発長打、グラスワンダーのグランプリ3連覇、一介の条件馬からジャパンCホースへと駆け上がったスクリーンヒーロー、トレーニングセール出身から“龍王”の尊称で海外ホースマンから絶賛されるまでに成長したモーリス、どの馬も想像を遥かに超えるような出世星を輝かせています。

昨日お話しした頑丈なまでの健康さもそうですが、環境の変化にも素直に順応できる賢さも大きな力になっています。スクリーンヒーローとモーリスの父子は、転厩を機会に馬が変わったような成長を遂げています。スクリーンヒーローの場合は、前任の矢野進調教師が定年勇退したため、桜花賞とオークスでそれぞれ2着したエフティマイヤなどとともに引き継いだものだが、転厩後も慌てず騒がずジックリと立て直しに専念して、ようやくゲートインさせたのが真夏の太陽が照りつける札幌の条件特別、前走セントライト記念3着から1年近くが経っていました。そこを勝ち上がると別馬のような充実ぶりを見せ、アルゼンチン共和国杯で重賞初勝利の美酒を飲み干すと、ジャパンCに駒を進め、ダービー&NHKマイルCの変則二冠馬ディープスカイ、東京コースの鬼ウオッカなどを尻目にスルリと内から抜け出して世紀のジャイアントキリングを果たします。

考えてみれば、曽祖母モデルスポート、祖母ダイナアクトレス、母ランニングヒロインと母系3代すべて矢野師が社台ファームから託され続けて大事に育てて来た一族です。4代母マジックゴディスは社台がイギリスから輸入した名繁殖ラトロワンヌを祖と仰ぎます。社台が広い世界から目利きし、矢野師が長年倦(う)まず弛(たゆ)まず育て上げた牝系の底力を、しっかりと受け継いだ鹿戸師の実直さに感嘆させられる思いです。その原石となったラトロワンヌは、競馬の歴史的大プロモーターであり名馬産家としても著名なマルセル・ブサック氏のオーナーブリーダー馬として生まれますが、後にアメリカに売られて繁殖牝馬として大成功します。その功績は、牝系を区分するファミリーナンバーの最高栄誉に輝く1号族の中でも、とくに別格に祭り上げられ「1-X」とラトロワンヌ系にだけ許された特別のナンバーリングを捧げられました。

ご承知のようにファミリーナンバーは、オーストラリアの血統研究家ブルース・ロウが1895年に考案した「フィギュアシステム」をベースに生み出されました。ロウは馬の戸籍簿とも言える『ナショナルスタッドブック』を100年以上前の第1巻まで遡り、確認できる牝系ごとに競馬の母国イギリスの基幹レースとされるダービー、オークス、セントレジャーの勝ち馬頭数の多い順に「1号族」「2号族」とナンバーリングしたものです。番号が若いほど競走能力が優秀とみなされるシンプルな仕組みです。この優劣は時代により変化していきますが、その後スタッドブックのカウント対象がクラシック5大レースに、アスコットゴールドCなど長距離三冠が加えられるように変更され、その編集も4年に1度更新されるようになって以後も、1号族の最多勝伝説は変わらず保たれています。その1号族の栄光の中でも、際立って燦然たる輝きに包まれているのがラトロワンヌを祖とするサラブレッドたちです。日米を代表する近年の活躍馬コントレイル、エッセンシャルクオリティ、フォルテなども、スクリーンヒーロー&モーリスにごく近い「1-X」に属するサラブレッドたちです。ロベルト系の美質と名牝系が伝える底力の融合がそこにあるのでしょう。