2023.02.09

ロベルト系の明暗【前】

近年のリーディングサイアー戦線の傾向をザックリ眺めてみると、万年2位の屈辱に泣くロードカナロアが「今年こそ悲願達成!」と思わせる勢いでシーズン初頭から先行して、最後は高額賞金レースが軒を連ねる秋冬のG1シリーズで、常勝将軍ディープインパクトが追い込みを決めて、絵に描いたような大逆転を成し遂げるという流れでした。ただ、初年度産駒のアーモンドアイ、2年目のサートゥルナーリアのような“超大物”が、ここ最近は出現していないのは挑戦者ロードカナロアには想定外の誤算だったかもしれません。今年も例年通り、ロードカナロアが突っ走り、ディープインパクトが大きく離されないように堅実に追いかける展開になっています。少し前のようにキングカメハメハやステイゴールドといった燻(いぶし)銀のバイプレーヤーが第一線から後退し始めた状況は、“二強状態”を一層際立たせています。

ロードカナロアは今年後半デビュー予定の現2歳から最長老8歳馬まで現役馬は7世代が揃い、各世代満遍なく頭数を集めて、堂々たるフルラインナップが完成しました。3歳以降はディープ没後の生まれですから、全体として母馬の質が向上している可能性も加味できそうです。よほどのことが起こらない限り、リーディングサイアーを戴冠できないケースは考えにくい状況です。ディープインパクトは3歳世代が登録わずか6頭の片肺飛行でクラシックシーズンを迎えるのは辛いのですが、11年連続リーディングサイアーに輝いた底力は侮れません。そうした中で、異彩を放っているのがスクリーンヒーロー・モーリス父子サイアーです。現在のランキングはモーリス5位、スクリーンヒーロー10位と立派といえば立派ですが、突き抜けているわけではありません。にもかかわらずベストテンを外さず頑張っている原動力は、賞金の高い重賞における勝負強さという一点にありそうです。この父子は、ここまで東西で行われた13の重賞レース中、ともに2勝ずつ、計4勝と荒稼ぎしています。息子モーリスは縁起良く“競馬始め”をG3・中山金杯でラーグルフが縁起良く祝盃を、G2・アメリカンジョッキークラブCではノースブリッジがG1獲りの狼煙(のろし)を上げました。父スクリーンヒーローに至ってはG3・愛知杯のアートハウスとG3・東京新聞杯のウインカーリネアンで重賞2戦2勝とパーフェクト勝率を誇っています。

無敵艦隊を思わせる進撃ぶりですが、どんな勇者にも“アキレス腱”があるものです。始祖ロベルト自身が15戦15勝のブリガディアジェラードに土をつけたように、度肝を抜くような一発長打をカッ飛ばす一方で、“不老長寿”と賞賛されるほど息の長い活躍を続ける健康な家系としても知られます。しかしこの素晴らしい美点が思わぬ足枷と化すこともあります。たとえばロベルトの代表産駒であるシルヴァーホーク29歳、ブライアンズタイム28歳、リアルシャダイ25歳は揃って頑健で長命です。子が父を超える大変さはどの世界も同じですが、種牡馬という同じ道を歩む場合は尚更でしょう。父が矍鑠(かくしゃく)といつまでも元気なため、子の活躍の場が狭まるのがこの一族の悩みといえば、贅沢な悩みです。ブライアンズタイムは三冠馬ナリタブライアンや宿命のライバル・マヤノトップガンは残念ながらサイアーラインを伸ばせませんでした。アガ・カーン血統に遡るタニノギムレットもウオッカがせめてもの忘れ形見になりました。

前出の29歳まで元気だったシルヴァーホークの血を引いたグラスワンダーも種牡馬は引退しましたが、28歳と父の長寿を追い越す元気ぶりで今も充実した余生を満喫しています。スクリーンヒーローも考えてみれば19歳、ディープインパクトが亡くなった年代に達しています。牧場ではプライヴェート扱いで大事にされていますが、そんな心配はご無用と言わんばかりの老い知らず。思い返せば、こうした逞しく頑健、賢く聡明、従順で環境に馴染みやすい気性、そういうサラブレッドに生まれ育ったからこその“不老長寿”なのでしょう。伝え続けられたロベルト系の宿命を乗り越えられるのか?次回はそのあたりを、もう少し掘り進めてみたいと思います。