2023.02.07

芝の新馬最終便

ダービーの翌週から次の年のクラシックへ向かって新馬戦がスタートします。いわゆる「ダービーからダービーへ」という番組編成ルールが定着して久しいのですが、一方では新馬戦や未勝利戦の終了も年々早まっています。今年は、先週の中京の1鞍と東京の2鞍で芝の新馬戦は終了。ダートの新馬戦も来週の東京、阪神を限りに打ち切られ、再来週以降は未勝利戦のみに完全移行します。さて、20年生まれ世代の“芝の新馬戦納め”となった東京6レース(芝1600m)は、瞬発力自慢のシュネルマイスターを半兄に持つ良血馬ナヴォーナの、先々への楽しみが膨らむ鮮やかな切れ味に軍配が上がりました。

直線に向いた所でビッシリ馬群に閉じ込められた上に、脱出を図ろうとした外側にフタをされ絶体絶命のピンチ。それに対して鞍上と気合を合わせて乾坤一擲(けんこんいってき)、強引にこじ開けて進路を確保すると、凄まじい瞬発力で馬群を鮮やかに突き抜けました。レース上がり11秒4-11秒4-11秒2=34秒0を、この馬は33秒2で駆け抜けていますから、後半2ハロンは実に10秒台の脚を続けて使っていると推定されます。

独オークス馬に輝く母セリエンホルデから遡る母系は、世界に誇るドイツ牝系の総本山シュレンダーハン牧場を故郷に育てられ紡がれてきました。この系統からはアグサンを通じてビワハイジからブエナビスタなどへと至るファミリー、サトルチェンジからはマンハッタンカフェ一族など日本でも確かな蹄跡を残しています。最近でもセルエンホルデの従姉妹にあたるサロミナがサラキア、サリオスなどを輩出しており、日本適性の高さも一級品の血筋です。父キングマンの半兄シュネルマイスターは、スプリント・マイル、中距離寄りの1800mなどを使われて、どこに適性があるのか?ちょっと掴みどころのない難しさも見られますが、上がり32秒台をしばしば叩き出しているように瞬発力は一級品。ナヴォーナの将来も楽しみしかありませんね。

年明けと遅いデビューながら、クラシックへの階段を三段跳びで駆け上がった出世物語では、96年のフサイチコンコルドが飛び抜けて有名です。競馬始めである1月5日のデビュー戦をアッサリ勝ち上がると、2ヵ月後の阪神2200mのOP・すみれSの関門も突破すると、小林稔調教師は皐月賞には見向きもせず、3ヵ月の休養を挟んでダービーへの挑戦を目指します。そこには初年度産駒から皐月賞・ダービー・オークスとクラシックを勝ちまくったサンデーサイレンスが、さらに優秀と評判の高い孝行息子たちを送り込んできました。皐月賞はイシノサンデーとロイヤルタッチがワンツーフィニッシュを決めており、熱発で皐月賞を回避したもののプリンシパルSを快勝したダンスインザダークが1番人気に推されています。レースの舞台は、武豊騎手が鞍上のダンスを中心に回り、好位から抜け出すと堂々と凱旋ロードを突き進みます。しかし藤田伸二騎手とコンコルドのコンビもタダモノではありません。道中は内々で死んだふり、ジッと脚を溜めてジワジワとダンスの背後に迫ります。直線で外に持ち出すと満を持して追い出され、一完歩ごとに測ったように差を詰め、遂にゴールラインではクビだけ先に出ていました。人気薄の気楽さはあったでしょうが、歴史に残る見事で強い競馬でした。

この前年、ヨーロッパでは“神の馬”ラムタラが、デビューわずか2戦目で英ダービーをレコード勝ちすると、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、凱旋門賞と世界の最高峰レースを次々と踏破した破天荒な記憶が生々しく、コンコルドはイメージ面でちょっと損をしています。ラムタラは2歳8月のデビュー戦快勝後に、管理調教師が厩務員に射殺されるというアンビリーバブルな(あり得ない)トラブルに巻き込まれ、レースを自重せざるを得ない気の毒な事情がありました。しかしデビュー戦からダービーまで10ヵ月を挟んで、その間にトレーニングをたっぷり積んでいます。長期休養明けにレコード勝ちするラムタラの凄さは誰にも真似のできないモノですが、デビューから5ヵ月足らずで迎えた大一番を強敵相手に勝ち切るコンコルドのポテンシャルも並みの高さではありません。ラムタラを地球の絶対頂上エベレストに例えるなら、コンコルドのそれは霊峰富士のような神々しさに輝いています。“ダービーからダービーまで”の番組体系の定着とともに、仕上がり早で経験が浅くとも、ここ一番でいきなり底力を爆発させられる馬が増えています。そろそろフサイチコンコルドの再来をこの眼に焼き付けたいものです。