2023.02.03

コーナリングの魔術師

年明けのG1級第一弾となるJpn1・川崎記念は、ウシュバテソーロが自信満々のレース運びで堂々と押し切りました。年の瀬の東京大賞典で昨年最後のG1レースを制覇したのに続いて、今年最初のG1を連勝で飾りました。昨年のゴールデンウィーク頃には準オープンクラスで走っていた馬です。さらに遡れば、デビュー時から昨年の春頃まで22戦連続で芝レースを走っていました。ダートを走り始めたのは、つい最近のことです。最近は芝ランナーだったジュンライトボルトがG1・チャンピオンズCを鮮やかに差し切ったり、ダート馬のイメージが定着していたヴェラアズールがG1・ジャパンCで背筋が凍るような凄みのある切れ味を発揮したり、サラブレッドが秘める適性というか潜在能力というか、人間の想像には、とうてい余りそうです。

その一方で、サラブレッドは人間の洞察や分析を簡単には裏切らない律儀さも備えているようです。この血統はスピードが持ち味だとか、末の切れにこそ本領があるとか、父から子へ、子から孫へと伝えられた遺伝子は、かなりの割合で二重映しを繰り返していきます。ウシュバテソーロのそれは、祖父ステイゴールドから脈々と伝えられてきた機動力というか操縦性の高さというかコーナリングの神秘なほどの対応力、とにかく高速でカーブを回ってくる器用さに目を見張らされます。ステイゴールド系、中でもドリームジャーニー・オルフェーヴル全兄弟のそれは傑出しています。コーナリングの難しさというか、極めてトリッキーなコース設計で有名なのは、中山と阪神それぞれの内回りコースを使う有馬記念2500mと宝塚記念2200mが挙げられます。角度の厳しいコーナーを何度もクリアしなければなりません。この難コースを我が庭のように自由自在に駆けられるのがステイゴールド系の最大の強みでしょう。ジャーニー&オルフェ兄弟は合計で有馬3勝、宝塚2勝を飾っています。ゴールドシップやナカヤマフェスタなどステゴの上級馬は、おしなべてこれらのレースを得意にしていました。

川崎記念の舞台は、1周1200mの馬場を1周と4分の3周、コーナーの数にして六度を忙しく回ります。イメージで語ると、スピードが乗りかかるとコーナーに差し掛かりますから、スピードの出にくい先行有利の馬場形態と言えるかもしれません。この日のウシュバテソーロは後方から競馬を進めます。どう立ち回るのか不安も半分でした。ところが内の経済コースをスイスイと追走して徐々に差を詰め、急カーブで難易度の高い4コーナーに差しかかります。ここで“コーナリングの魔術師”の真骨頂が爆発。コーナーの手前では前との差は2〜3馬身あるように見えたのがですが、内を衝いてコーナーに切り込み直線に向くと、アラ不思議、もう先頭に並びかけています。後続を突き放してゴールへ一目散、外を回った1番人気のテーオーケインズが必死に追いますが、半馬身余してゴールラインを迎えます。テーオーケインズも傑出した地力の持ち主ですが、短い直線で逆転までは無理だったようです。

それにしても、サラブレッドは摩訶不思議(まかふしぎ)な生き物です。面白くてなりません。高速コーナリングを武器に頂上を極める馬もいれば、カーブが不得手で日本ではG1と無縁だったアグネスワールドのようにヨーロッパの直線競馬でG1を2勝もした馬もいます。ウシュバテソーロの次なるチャレンジは、ドバイワールドCを標的にしているようです。テーオーケインズも帯同するようですから、川崎の続篇が見られそうです。今度のメイダンは1周1750mと広々とした大箱です。ツーターンでコーナーは4つ、魔術師ぶりを発揮できるコースですが、後ろから行く馬には辛いキックバックという魔物が棲んでいます。こうした課題をひとつずつ克服して、ドバイワールドCで好勝負ができるようなら、秋は太平洋を超えてブリーダーズCクラシックでダート界の頂上を目指すことになるのでしょうか。凱旋門賞の二度の2着で世界を震え上がらせたオルフェーヴル伝来の秘技、“コーナリング魔術”が炸裂しないものでしょうか。