2023.01.12

海外遠征の新次元

賞金総額2850万ドル≒37億2000万円(1ドル=132円)と世界最高の賞金総額を誇るサウジカップデーの登録メンバーと負担重量が発表されました。日本勢は全6レースに延べ106頭が登録を済ませています。招待馬の選出はこれからですが、サウジカップのジュンライトボルト、レッドルゼルも登録しているリヤドダートスプリントのリメイク、ネオムターフカップのソーヴァリアントは、指定レースを勝っており優先出走権を獲得しています。レッドルゼルはG1・ドバイゴールデンシャヒーン2年連続2着と、昨年このレースをぶっちぎったディフェンディングチャンピオンのダンシングプリンスともども格上の存在で選出濃厚と思われますが、そうは言っても厳しい狭き門であるのは確かです。

ダートスプリント界の世界地図には、晩秋のブリーダーズカップ(BC)スプリントと並んで初春のドバイゴールデンシャヒーンが、それぞれ総賞金200万ドルを誇る最高峰としてひときわ高く聳え立っています。これらのレース価値の傑出ぶりは、前者の覇者ドレフォンと後者を2連覇しているマインドユアビスケッツが日本で種牡馬として次々と成功を収めていることにも表れています。今年から社台スタリオンステーションに導入が決まったメイドインUSAのホットロッドチャーリーも、BCスプリントを勝ったミトーリの半弟という血筋が評価されての来日です。これらの最高峰レースのいずれか、運が良ければ両方を制覇することが、サラブレッドにとって最重要のスピードを伝える基幹種牡馬として将来を切り拓く関門になっているとも言えます。そのためにルゼルが去年までとは一転してリヤドダートスプリントに向かうのは良い選択だと思っています。

これまでのルゼルは、年明けのG3・根岸S(ダ1400m)をステップにG1・フェブラリーS(ダ1600m)で強敵相手に腕試しをして、そこからドバイに飛んで1200mに挑むというルーティンを踏襲してきました。距離を延ばしたり短縮したり、ちょっと的が定まらない感じですが、日本ダート界のレース体系は暮れの中山で行われるG3・カペラS (ダ1200m)から根岸Sを経て、フェブラリーSを最終ゴールとする仕組みとなっており、他に選択肢がなかったのも事実です。素人考えでしょうが、一貫して1200mの電撃ペースを使い続けるのと、1400mを試し1600mを使った後での再度の1200mとでは、テンの行きっぷりからして違うはずです。ライアン・ムーア騎手を鞍上に迎えながら、後方に置かれ気味になったメイダンの駆けっぷりに、少なからず違和感が脳裏を横切ったのを覚えています。

今年の新生レッドルゼルは、日本の番組体系に背を向ける格好にはなりますが、従来の1400mや1600mのペースではなく、本番同様の厳しくも過酷な激流ラップを経験させるために、いきなりサウジアラビアに渡って1200m戦に挑戦します。昨年、日本馬3騎が挑んでダンシングプリンスが6馬身近くぶっちぎる圧勝を飾り、チェーンオブラブが3着、コパノキッキングが4着と上位を独占したコースです。一昨年もコパノキッキングとマテラスカイが日の丸ワンツーを決めており、日本馬ルゼルに合わないワケはないでしょう。

話は飛びますが、昨年は芝3000mのG3・レッドシーターフハンデをステイフーリッシュが鮮やかに4馬身ちぎって逃げ切りましたが、ダートスプリント同様に番組に恵まれない“過疎カテゴリー”での出来事でした。ステイフーリッシュは次走のG2・ドバイゴールドカップ(芝3200m)も見事に連勝して、合計200万ドル超≒2億5000万円余りを稼いでいます。同じカテゴリーの国内での最高峰レース天皇賞(春)の1着賞金が昨年は2億円でしたから、ステイフーリッシュは海外を舞台に文字通り“一攫千金”ドラマを演じたわけです。こういう海外遠征のあり方、サラブレッドの生き様も見事なものだと感心させられます。