2023.01.10

クラシックへの架け橋

窓の外では蝋梅(ろうばい)が冷たい北風に葉を散らせながら、ひっそりと可憐な花をほころばせ始めています。花の少ない真冬にそっと健気(けなげ)に咲く姿に、古人は「奥ゆかしさ」「慈しみ」を花言葉として当てています。また一足先に花を咲かせるところから「先導」や「先見」の化身ともされてきました。多かれ少なかれ、この時季に自然界で息吹くイキモノたちには、こうした蝋梅の生き様にも似た習わしを秘めているのかもしれません。昨今のサラブレッドたちを取り巻く環境は、調教施設が整備が進み厩舎環境の向上なども手伝って、冬季といえどもレースに向けた調整が支障なくこなせるようになっています。自然界のイキモノと同じようなアルゴリズムが作動する条件が満たされて来たのでしょう。一昔前のように、クラシックを狙うような大物は寒さ厳しい正月明けなどに始動させない、そんな風習はもう過去のものになってしまいました。

新年の幕開けを告げるシンザン記念が三冠馬オルフェーヴルを筆頭に、ジェンティルドンナやアーモンドアイなどの歴史的名牝を輩出しています。今年もディープインパクトわずか6頭のラストクロップの1頭であるライトクオンタムが父を彷彿させるように直線を飛んでゴボウ抜きの劇的勝利を飾っています。この1勝が決め手となって、ディープインパクトは開幕週4日間でリーディングトップの座を占め続けています。クラシック世代6頭だけで疾風怒濤のリーディング争いの荒海を乗り切れるのか?今年もドキドキハラハラ、帝王ディープインパクトから目が離せません。ライトクオンタムは桜花賞に向かうのでしょうか?ファーストクロップのマルセリーナがシンザン記念3着から桜の女王になっていますから、もし桜のティアラを戴冠できれば、こんなに絵になる光景は滅多に見られません。

同週開催のフェアリーSはキタウイングと杉原誠人騎手のコンビが手に汗を握らせてくれました。作戦通り後方に構えたキタウイングでしたが、中山外回りの向こう正面の長い下り坂を使って、しかも距離ロスのない内ラチ沿いでジワジワと差を詰め、直線入口では先行勢のすぐ後ろまで接近します。しかし内ラチから離れず、先頭を行くマイレーヌとラチの間のわずかな間隙に、人馬ともども強い気持ちを合わせて割って入り一瞬で突き抜けます。大外を回したメイクアスナッチが良い脚でアタマ差まで迫りますが、内を抜けた人馬の気迫が寄せ付けませんでした。杉原騎手は藤沢和雄調教師の最後の直弟子ですが、下積みの苦労が報われる重賞2勝目です。良かったです。強い気持ちや勇敢さは大切なのですが、ただしレースでは全部の人馬が真っ直ぐ走ってくれるとは限りません。今日のようなプレーが危険騎乗と紙一重にならないとは限りません。名伯楽が口癖のようにおっしゃっていた「一勝より一生」の言葉を噛み締めてください。どうぞご自愛いただいて、藤沢先生を喜ばせる活躍を長く続けてください。このフェアリーSもシンザン記念と同様にクラシックを先導するレースとして存在感を増しています。昨年の桜花賞・オークスの二冠馬スターズオンアースを頂点に、近年はスマイルカナやファインルージュが桜花賞で上位を賑わせる活躍を見せています。さてキタウイングと杉原騎手のチャレンジコンビ行く手には、どんな花が咲くのでしょうか?

来週のL紅梅Sも、お伝えした例に漏れず“クラシック先見レース”として際立った実績を歴史に刻んでいます。1400mと基幹距離を外れているのですが、出走馬たちが到達した未来の姿は実に多様多彩です。そもそも20年前の牝馬三冠馬スティルインラブが事始めでした。翌年は紅梅S1着スイープトウショウと2着ダイワエルシエーロがオークスで着順は逆でしたがワンツーフィニッシュを決めて、チャンピオンディスタンスへの適性を高らかに宣言しました。10年後の13年は紅梅Sワンツーのレッドオーヴァルがマイラー特性を反映させて桜花賞2着、メイショウマンボは晩成の血を爆発させて、オークス・秋華賞・エリザベス女王杯と牝馬G1を固め打ちします。一昨年のソングラインのように安田記念を勝つマイラーとして大成する馬もいます。始まったばかりの新シーズンですが、話題満載でこの先も大きな盛り上がりが期待できそうです。楽しみが止まりませんね。