2022.12.26

有馬記念と血統の未来【前】

豪華絢爛にも年度代表馬候補を網羅した今年の有馬記念は、キタサンブラックの初年度産駒イクイノックスが、想像のはるか上空を滑空するように勝利へと飛び立ちました。シンボリルドルフ&トウカイテイオー、ディープインパクト&ジェンティルドンナ・サトノダイヤモンドに続く4例目の父子制覇の快挙というのも素晴らしいものです。しかしそれ以上に、祖父ブラックタイドの挫けない反骨精神の強(したた)かさには思わず胸が熱くなります。

底光りする漆黒の馬体からブラックタイドとされたウインドインハーヘアの息子は、新時代の寵児(ちょうじ)へと昇り詰めるべく今世紀が幕を開けた2001年にノーザンファームで誕生し、その年のセレクトセールで1億185万円の高額で金子真人さんに落札されています。翌年に同じ金子さんによって落札された全弟ディープインパクトが7350万円だったことを思えば、雄大な黒鹿毛を輝かせるブラックタイドへの評価と期待が、どれほどのものだったか想像できると思います。しかし、その後の全兄弟2頭の軌跡は、ご存知の通りです。兄はG2スプリングSは勝ったものの皐月賞は惨敗、ダービーは出走せず、スプリングSが生涯唯一の獲得重賞に終わりました。無敗で三冠馬に輝き、栄光という栄光すべてを掌中に収めた弟とは雲泥の差でした。競走馬としても種牡馬としても、言葉は悪いのですが“愚兄賢弟”を絵に描いたようなストーリーが延々と続けられます。

しかし運命の行き先なんて分からないのは、人間も馬も同じです。史上屈指の快速スプリンター・サクラバクシンオーの娘との間に授かったキタサンブラックは、常識を次から次へと覆し続け、2年連続で年度代表馬に輝きディープに並ぶとともに、20年近くぶりにテイエムオペラオーが保持していた世界賞金王のチャンピオンベルトを奪取し、遂にディープにも叶えられなかった金字塔を打ち立てます。そして孫世代からイクイノックスという年度代表馬最有力候補を生み出します。これも偉大なるディープインパクトですら、まだ到達していない未踏の領域です。父キタサンブラックへの期待は急騰し、来季の種付料は倍増の1000万円と大台を突破しました。しかし、ブラックタイドを源流として脈々と注ぎ込まれる、折れない・挫けない不屈の反骨魂の大河への期待は、いささかも縮まずノミネーション市場では、既に満口の盛況だそうです。

勝ったイクイノックスも立派でしたが、2着以下の掲示板を独占したロベルト系の勝負強い血にも、改めて驚かされました。ロベルトの血を持つサラブレッドは、中山2500mの有馬記念となると特別な神通力を発揮するようです。有馬におけるロベルト系の爆発は、94年のナリタブライアン、翌年のマヤノトップガン、1年挟んでシルクジャスティスのブライアンズタイム産駒3連発を引き金に、グラスワンダーとシンボリクリスエスがともに連覇を達成するなど10年間で7勝と驚異的なアベレージを叩き出しています。その後も、15年のゴールドアクター、昨年はエフフォーリアと忘却の彼方へ追いやられない間隔でウイナーズサークルに姿を現しています。こうした血統トレンドも含めて、有馬記念に見られた事象から、もう少し先の競馬ストーリーを考えてみたいと思います。