2022.12.05
もう一つのお楽しみ
G1デーの競馬場は、お目当てのメインレース以外にも楽しみが盛りだくさんの一日となります。この日ならではの華やかな雰囲気とスタンドを埋め尽くす大勢のファンの歓声の中で、愛馬を走らせてあげたいと思うのはホースマンの共通の思いでしょう。厩舎サイドから見れば、お世話になっている馬主さんや牧場関係者が競馬場に駆けつけるモチベーションを高めてくれるでしょうし、何よりもG1デーには外国人ジョッキーを含めて日本屈指の腕利きたちが、ほぼ全員集合するからです。とくに生まれて初めての実戦に臨む新馬戦出走馬の陣営にとっては、そうした思いが強いようです。新馬戦がスタートした直後の宝塚記念に始まって、天皇賞(秋)、菊花賞、ジャパンCなどの開催日に、いわゆる“伝説の新馬戦”と後々まで語り草になるようなハイレベルの新馬戦が集中するのはそのためでしょう。
今年のG1チャンピオンズCデーも、いつもに増してワクワクさせられるメンバーが顔を揃えました。血統馬、素質馬、評判馬がズラリ居並ぶ9頭立ての1番人気はメズマライジングが支持されます。日本国内に6頭(海外を含めても12頭)しかいないディープインパクトのラストクロップです。この“ラスト・インパクト”たちは、国内ではデビューした2頭がいずれも新馬勝ち、ヨーロッパではエイダン・オブライエン厩舎のオーギュストロダンが既にG1フューチュリティトロフィーを勝利して、全13世代でG1完全制覇を達成しています。父ディープインパクトの魂が乗り移ったような無双ぶりが眩し過ぎますね。ファンの大いなる期待も含めて1番人気は当然でしょう。それに差なく続いたのがジャスティンボルト。こちらは評判ウナギ登りのキタサンブラックの産駒で、姉に快速レシステンシアがいる血統馬で、G1デーらしく“世界のライアン・ムーア”を鞍上に迎えてデビュー勝ちに意欲満々です。
父キタサンブラックがもう一頭、ワイズメアリーという牝馬がそれです。母アオイスカーレットはその父がディープインパクトの血統ですから、キタサンの父ブラックタイドとの間に2X2と強烈な全兄弟クロスを抱え込んでいます。ジャパンCで来日して穴人気したオネストが、父父ガリレオ、母父シーザスターズの異父兄弟クロス2X2で注目されましたが、血量的にはそれを上回る濃厚さです。大物馬産家で凱旋門賞ブランディングの大功労者であるマルセル・ブサックさんが生み出したトゥルビヨン2X2の凱旋門賞馬コロネーションの“超近親交配”が有名ですが、時代とともに知見が深まり経験を積み重ねた現在では、“狂気の沙汰”とか“危険がいっぱい”とタブー視されたチャレンジングな配合も、徐々に受け入れられ、少しずつですが成果を出しつつあるようです。この日のワイズメアリーは牡馬の錚々(そうそう)たるメンバーを引き連れて逃げを打ち、最後はさすがに少し疲れましたが、いずれ勝ち上がるチャンスも巡って来そうです。
逃げるワイズメアリーを捉えて先に抜け出したメズマライジングに襲いかかったのは、中団で落ち着いて脚を貯めていたワンダイレクトでした。ハービンジャーの血らしく良い脚を長く使えるタイプのようです。函館スプリントS、キーンランドCを連勝してサマースプリント女王に輝いた祖母ワンカラットのイメージが強烈で、少し距離が長いかと心配もされたのですが、まったくの杞憂に終わりました。ワンカラットの半妹ジュエラーは桜花賞馬であり、母ワントゥワンは関屋記念、富士Sなどマイル重賞を2着しています。馬主の青山洋一さんが愛着を込めて育て上げて来た牝系で、徐々に距離にも対応できるように血統自体が進化しており、5月の遅生まれだけに今後の成長を見込めばクラシックを狙える素材でしょうね。血統や配合を固定的に捉えるのではなく、滔々(とうとう)たる大河のような変化と成長の流れとして眺めることも必要なのかもしれません。