2022.11.25

夢の配合に出会う

まず日本では見られないレアな配合に出会えることも、ジャパンCの楽しみのひとつです。凱旋門賞連覇で完成されたステイヤーの凄みを見せてくれたエネイブルのサドラーズウェルズ3X2というアグレッシブ(攻撃的)なスーパークロスには目を丸くさせられましたが、今年のJC参戦馬オネストの配合も相当にチャレンジングな香りをプンプンさせています。彼は父フランケル、母オンショアの血統ですが、それぞれの父はガリレオとシーザスターズの兄弟になります。人間で言えば、イトコ同士の配合という近親交配です。日本で言えば、たとえば父の父エピファネイアと母の父サートゥナーリア、またはその逆配合みたいなイメージですね。異父兄弟クロス2X2とともに、オネストなら父系母系に共通の母アーバンシー3X3が発生し、日本馬の架空配合では兄弟2X2、シーザリオ3X3と何とも魅力的な夢のような配合を内包したサラブレッドが誕生します。叶うものなら、ぜひ見てみたいものです。

オネストの場合、さらに食欲をそそるのは、どんなグルメも想像を超えた味わいに言葉を失う究極のマリアージュ(融合)を現実のものにするサイアーラインでしょう。オネストの4代父ノーザンダンサーが最初に英愛リーディングサイアーに輝いた1970年から今日に至るまで52年間、この父祖からサドラーズウェルズ、ガリレオ、フランケルへと伝えられた“王者の父系は、4代合計31回もチャンピオンの座に君臨してきました。しかもサドラーズウェルズ13回、ガリレオ12回の間を繋ぐ3年間の空白を埋めているデインヒルはフランケルの母父ですから、20世紀から21世紀をまたぐ半世紀はこの4代のチャンピオン父系が栄誉と名声とを、ほぼ独り占めしたことになります。古来、帝王の血統を“王統”と呼び、日本では天皇の血筋という意味で“皇統”と尊んできました。まさに王統の血筋です。

パリ大賞を勝ち、愛チャンピオンS2着と欧州を代表するG1レースで輝いた競走成績も素晴らしいのですが、血統の華やかさには胸がワクワクさせられます。父フランケルは述べた通り、その父ガリレオから継承した欧州競馬の王道のまん真ん中を疾駆する王統の血筋ですが、母の父シーザスターズも器の大きさを感じさせる点では、一歩もヒケを取りません。デビュー戦を取りこぼした以外は8戦8勝と無敗のまま英2000ギニー&ダービーの二冠、凱旋門賞と頂上戦で無双した近年屈指の名馬なのはご存じの通りです。種牡馬としては今年のヨーロッパの話題をかっさらったバーイード、またアスコットゴールドC3連覇、グッドウッドC4連覇など地味めなマラソンG1にまばゆい光をあてたスラディヴァリウスなど、少なからぬ産駒たちが常識破りの大物ぶりを発揮することで有名です。

オネストの鞍上でクリストフ・ルメール騎手が手綱を握るのも、主戦だったパスキエ騎手には申し訳ないのですが、似合いのコンビかもしれません。なにしろ“王統の正統後継”フランケルに、世界で最初にG1勝利を届けたのも、クラシックの栄誉を戴冠させたのも、誰あろうルメール騎手と藤沢和雄調教師がソウルスターリングで成し遂げた歴史的偉業でした。次の時代の配合トレンドの魁(さきがけ)となるオネストの大仕事には、一番似合う競馬場と相棒だろうという気がします。