2022.11.07

伝説の誕生とその続き

いくつもの新たな伝説を生み出して、「競馬の祭典」ブリーダーズカップが幕を閉じました。最高のハイライトは、“砂上の怪物”フライトラインが、ブリーダーズCクラシックで演じた噂どおりケタ違いのパフォーマンスでした。IFHA(国際競馬統轄機関連盟)から140ポンドと歴代最高のレーティングを贈られた“怪物”フランケルに次いで、前走の異次元パフォーマンスに対して139ポンドに評価され、“砂上の怪物”と芝ランナーの先輩に並んで呼ばれるようになりました。レースは「競馬の祭典」にふさわしく、出走全馬がG1ホースと超豪華版でしたが、昨年のBCダートマイルを圧勝している快速馬ライフイズグッドが、覚悟を決めて“捨て身の逃げ”を打つと、途方もないペースでブッ飛ばします。というよりスタート直後の1コーナーでに飛ばすライフに並びかけペースアップさせると、その後も密着マークを緩めず息を入れさせない作戦が、自ずと引き出した“殺人ペース”だった印象もあります。それでいて最後は軽く流す余裕のゴールでしたから、もう“怪物”と舌を巻くしかありません。本当に強い馬です。この最高峰レースを含めて、ここまで6戦6勝と圧勝のオンパレードで着差の合計が71馬身は“新たな伝説”の誕生でした。

キーンランド競馬場は、日本人ファンにとっても夢が大きく膨らむような“伝説”も生み出してくれました。初日のブリーダーズCジュベナイルターフでの出来事でした。芝の2歳チャンピオンを争うレースで、昨年はゴドルフィンのモダンゲームズが勝っているように(今年の彼はブリーダーズCマイルを完勝しました)毎年ヨーロッパからの遠征馬が活躍します。今年もゴドルフィンが連覇を狙って送り込んだシルヴァーノットが主戦ウィリアム・ビュイックを背に抜けた1番人気に支持されています。ちょっと出遅れましたが、さすがに力のある馬で4コーナーで内ラチ沿いを衝いて先頭に立ち、ゴールを目指して脚を伸ばします。そこへ馬群を割って急襲したのがクールモアの勝負服のライアン・ムーアが鞍上のヴィクトリアロードでした。宿命のライバル同士の叩き合いは、追いかける勢いでヴィクトリアがハナだけ出ていました。

ご承知のように、ヴィクトリアロードは日本のディープインパクトが生んだ本場イギリスのクラシック馬サクソンウォリアーの初年度産駒、ディープの孫が早々と海外G1を勝ったことになります。手綱を執ったムーア騎手は「素晴らしいサイアーラインです」と“ディープインパクト系”の奥深いポテンシャルを絶賛しています。このジョッキーは“世界を知り・日本を知る”ことにかけては、傑出して豊かな経験と高い見識を備えています。“無二のバディ”(相棒)エイダン・オブライエン調教師も、日本がらみの事は全幅の信頼を寄せているようです。そのライアンの“お墨付き”を貰った“ディープインパクト系の可能性”は、さらに広がっていくのでしょうね。ディープインパクトの孫世代からは、既にキズナがアカイイトでエリザベス女王杯、ソングラインが安田記念を勝ち、リアルインパクトはラウダシオンでNHKマイルCを制していますから、ヴィクトリアロードで4勝目ということになります。今後は日本にとどまらず、世界の舞台でG1馬、クラシック馬が続々と誕生するかと思うとワクワク感が止まりません。

ちなみにオブライエン師はヴィクトリアロードのローテーションについて、仏ダービーを考えているようです。自身、前走で仏ダービーの舞台でもあるシャンティイのG3コンデ賞で勝っており、父サクソンウォリアーはG3ミエスク賞のムーンレイを出しており、フランスとの相性の良さは群を抜いています。これが大きなモチベーションになっているのは間違いないでしょうが、大所帯オブライエン厩舎の台所事情の影響もありそうです。厩舎には御本尊ディープインパクトのラストクロップであるオーギュストロダンがまばゆい存在感を放っています。G1フューチュリティトロフィーを圧勝するなど目下3連勝中で、英ダービーはブックメーカー・オッズで抜けた人気に推されています。英仏ダービーは1日違いですから、オーギュストがイギリスのエプソム、ヴィクトリアがフランスのシャンティイと使い分けされるのでしょうね。その分、我がディープインパクト系の勝機も増すことになります。ディープインパクト伝説は、まだまだ続いていきそうです。