2022.10.31

スーパーG1デイ

長い間、日本の競馬では「八大競走」という概念が価値の最高峰として尊ばれてきました。桜花賞・オークス・皐月賞・ダービー・菊花賞の3歳クラシックレースと、古馬混合のジャパンカップ、有馬記念に春秋を併せて一つにカウントする天皇賞を加えた「五大クラシック」を含む「八大競走」の呼び名で、今日風に言えば“G1を超えるスーパーG1”とも呼べる“特別な存在”として、ここを勝つことが至上の目標であり、究極の誇りとなる多くのホースマンから尊敬されてきました。これに宝塚記念とエリザベス女王杯を上乗せして「十大競走」とする概念も根強く語り継がれています。この週末は、東京競馬場の天皇賞(秋)を頂点に、ホースマンやファンをこぞって熱くさせる魅力的な番組がラインナップされ、それにふさわしい馬が揃いました。結論から言わせてもらえば、素晴らしいサラブレッドたちが、それぞれに個性の華を満開に咲き誇らせて、素晴らしい“競馬日和”を過ごすことができました。さすが「八大競走」です。

天皇賞(秋)は、ファンの期待どおりパンサラッサの大逃げが鮮やかなほど華麗に決まって、20馬身ほども突き離して府中の長い直線に向くと、ドンジリ近い後方から信じられないほど長い距離を一完歩一完歩追い詰めて行くイクイノックスとのスリリングな追い比べが、興奮のボルテージを極限(マックス)まで引き上げます。永遠ほど長いとも、アッと言う間とも、感じられる時間でした。しかし競馬の醍醐味を絵に描いたような至福の時間を味わえた幸福に酔わされました。3着に踏ん張ったダノンベルーガは凛々しい若武者ぶりが立派でした。ジャックドールも力のあるところは見せられたと思います。シャフリヤールは年齢的に成熟期を迎えたのか、少しズブくなっているのかも。次に予定しているジャパンカップで強豪揃いの外国馬勢を相手に真価を発揮するのでしょうか?いずれにしろイクイノックスから最下位バビッドまで1秒ちょっと、着差にして6~7馬身見当に全馬がゴールしています。歴史に刻まれる名勝負だったと思います。

レッドモンレーヴは藤沢和雄厩舎に所属していた前走は、先生にとって最後の1勝となる生涯1570勝目の勝利でした。その先生の「競馬の殿堂」入りを記念するメモリアルレース「レジェンドトレーナーカップ」では、昇級戦とも思えぬ堂々たる競馬で凱歌を上げたのには、“モッテル”馬なんですね。惚れ惚れさせるような瞬発力の持ち主で、キレ過ぎるがゆえに、マイルくらいが適距離かもしれませんが、いずれはG1デイのメモリアルレースではなく、G1レースそのもので恩師を歓喜させてほしいものです。ダート戦線からも大物が飛び立ちました。日曜9Rのレッドモンレーヴからバトンを受けたOPペルセウスSのレモンポップは、もともと高いポテンシャルで将来を嘱望された素質馬です。3歳春にはケンタッキーダービーで故郷に錦を飾るか?とワクワクさせてくれたこともあります。長い休養から復帰してからは、無理のない適鞍を選んで慎重に使われて来ましたが、もう重賞戦線に乗り込んで不足のない時期でしょう。年明けのG3根岸SからG1フェブラリーSの路線でしょうか?レッドルゼルと被りそうなローテーションですが、先行抜け出しを図るレモンポップ、追い込むルゼルの対決は楽しみでもあります。

個性輝く名レースというお話をしましたが、相手の個性を封じる技術も競馬のうちですね。時間は逆行しますが、土曜東京のG3アルテミスSが、そんなレースでした。ラヴェルが出遅れをモノともせず、当面の強敵リバティアイランドの進路を封じ込める形で差し切りました。偶然だったかもしれませんが、先々の楽しみが膨らむ勝利でした。アイランドも絶体絶命のピンチからクビ差まで追い込んだのですから“負けて強し”の内容でしたね。ここから来春のクラシックへ何頭が駒を進めるか期待したくなるほど、レベルの高いメンバーが良い競馬を見せてくれました。勝ったラヴェルはイクイノックスと同じキタサンブラックの血統です。しかもイクイノックスは母父キングヘイローから、ラヴェルは曽祖母に桜花賞馬キョウエイマーチから、ともに母系にダンシングブレーヴの血を受け継ぎ、重厚な底力をシッカリとアシストされています。このキョウエイマーチと並び立つ名繁殖牝馬に、産駒4頭が重賞を11勝もしているダンシングブレーヴ最高の孝行娘エリモピクシーがいます。東サラは彼女の忘れ形見レッドアヴァンセ、レッドオルガなど優秀な後継馬の宝庫とも言えそうです。ただし彼女たちとキタサンブラックとの配合は、ラヴェル同様にサンデーサイレンス3X3の近親交配リスクが伴いますが、母系に入ってのダンシングブレーヴの強さは格別です。こちらも楽しみがドンドン膨らみそうです。