2022.10.21

夢のクラシック血統【後】

昨年までにクラシック年齢に達した12世代が、すべてクラシックレースを勝利してきた“稀代のクラシック血統”ディープインパクトが、全世代制覇の偉業達成まで2世代と残り少ないカウントダウン態勢に入った今年、意外にも想定外の苦戦が続いています。皐月賞とダービーはアスクビクターモアがともに3着と善戦止まりに終わり、牝馬の桜花賞とオークスは出走馬自体がそもそも少なくパーソナルハイのみの単独挑戦でしたが、それぞれ6着、16着に敗れました。最終関門である菊花賞ひとつのみを残して、ここまで無冠とは想像もできないものでした。しかし長丁場3000mでスピードの持続力と最後の最後で瞬発力を競う菊花賞をディープインパクトの血は大得意としており、16年のサトノダイヤモンドを皮切りに、18年からはフィエールマン、ワールドプレミア、締めくくりの三冠達成コントレイルまで3連覇・通算4勝を飾っています。記録王・サンデーサイレンスが、ダンスインザダークに始まり、エアシャカール、マンハッタンカフェを経て三冠達成ディープインパクト自身で到達した通算4勝に並ぶ金字塔でした。

すべての人々の想像を軽々と超えていくディープインパクト軍団がクラシック戦線に刻み込んだ蹄跡は、開幕戦の桜花賞が4年連続を含む通算5勝、オークスが3年連続を含む5勝、皐月賞は2年連続を含む通算3勝でダービーに至っては4年連続を含む空前絶後の通算7勝と信じられない高みにまで達しました。最終関門の菊花賞は前出のように3年連続を含む4勝と歴代最高タイの記録を残し、その合計は24勝に達し、英愛仏のヨーロッパ3カ国での6勝を加えると実に30勝という破天荒なレベルへ突き抜けてしまいます。今さらですが、ディープインパクトの“クラシック血統”の際立った凄みに圧倒される思いです。こんな偉大な種牡馬、もう出てこないかもしれませんね。

さて、話を戻します。現3歳からバトンを繋がれるラストクロップ世代は、世界中で競走馬登録されているのは日本6頭・ヨーロッパ6頭と世代という塊の概念では捉えられないほど微細で極小の頭数しかいません。でも、この“ミクロの世代”は極めて優秀なサラブレッドが揃っているようです。日本ではデビュー勝ちを決めたオープンファイアがリステッドレースからクラシック路線へと舵を切るようです。今や“ディープ産駒の宝庫”の定評に輝くアイルランドのエイダン・オブライエン厩舎のオーギュストロダンは、明日土曜のドンカスターでおこなわれるG1・フューチュリティトロフィーに圧倒的な1番人気で出陣します。同父・同厩舎の先輩サクソンウォリアーが、ここを勝って翌春の英2000ギニーに飛躍した出世レースです。首尾よく勝てば全世代G1制覇の快挙を早々と実現し、本命視されているダービーで全世代クラシック制覇の歴史的偉業にチャレンジします。世界中から寄せ集めても、たった12頭の“ミクロ世代”の破格の仕事ぶりに、大いに注目したいと思います。

その“大偉業”に繋ぐには、まず今週の菊花賞を勝つことが絶対の前提条件になります。関係ホースマンもそれは百も承知で、それぞれの手駒の内で可能な限り、『夢の大偉業』にバトンを繋ぐ努力をしてもらったようです。1勝クラスで抽選対象となったディープインパクト3騎でしたが、「8分の3」と、まぁ絶望的とばかりも思えない確率に賭けたものの抽選器の冷酷さに跳ね返されました。残念ですが、競馬がこれで終わってしまうわけでもありませんから、他日の大成を期して力を蓄えてくれたらと願います。残る期待は実績馬3騎、神戸新聞杯を勝ってイの一番の優先出走権をゲットしたジャスティンパレス、既に賞金が足りているアスクビクターモア、プラダリアは、ここ一番を前に牙を研ぎ澄ましています。クラシックともなれば相手も強く、勝負は簡単ではありませんが、ディープインパクトが紡ぎ上げてくれた夢の大輪を、さらに咲かし続けてくれたら最高なのですが…。