2022.10.17
毀誉褒貶(きよほうへん)
褒められる事と貶(けな)される事が交錯して、評価が微妙な状態に置かれていることを現します。今年から種付料1800万円とトップサイアーの座に就いたエピファネイアは、昨年の有馬記念を制したエフフォーリア以来、ファンの熱い期待とは裏腹にグレードレースの勝利とは無縁でした。出る馬すべてが負けに負け続け57連敗と不名誉な記録を更新中です。来年の種付料も減額されトップの座からの転落が囁かれるなど、まさに“毀誉褒貶”相半ばする苦境の渦中に呑み込まれようとしていました。しかし、天は将来ある新進種牡馬を見離さなかつたようです。土曜の東京・G2府中牝馬Sで伏兵イズジョーノキセキが直線一気の強襲で、勝利目前だった1.9倍と圧倒的人気の白毛馬ソダシを差し切る大金星を掴み取り、ストップ・ザ・58連敗を遂に成し遂げてくれました。
今年の2歳馬が第4世代となるエピファネイアは、初年度産駒のデアリングタクトがいきなり牝馬三冠を制覇したのを皮切りに、2世代目の若大将エフフォーリアは現代における王道(チャンピオンディスタンス)の中距離G1で絶対的存在感を示し、3世代目からはサークルオブライフが2歳女王に輝くなど全世代からG1馬を輩出し、延べ4頭で重賞10勝を挙げ、そのG1比率は7割という驚くべきアベレージを叩き出しました。さらに大きな特徴としては、すべてが「サンデーサイレンス4X3」の配合馬によって成し遂げられたことです。エピファネイア産駒の大多数は「サンデーサイレンス・クロス(SSクロス)」を抱えているのですが、それにしても見事な配合技術と感嘆させられます。日本の血統マーケットに“SSクロス”を確立した功績は後世まで長く伝えられる偉業でした。
ところでイズジョーノキセキは、この“SSクロス”を1ミリも持たないエピファネイア最初の重賞ウィナーです。エピファネイアの新境地が開拓されたと考えて良いのではないでしょうか?ラインナップが分厚くなったのは何よりの強みでしょう。さらにこの週末は2歳馬陣も大奮起、土日で5頭が勝ち上がる固め打ちを決めました。日曜の阪神2000mの新馬戦には、フランスで1000ギニー、オークスの二冠を含む8戦8勝の無双女王ラクレソニエールを母に持つルモンドブリエが期待に応えています。文句なしの世界クラスの良血で、イズジョーノキセキ同様に“非SSクロス”なのも、次代の勢力拡張を進める産駒バリエーションの広がりを支えるものです。クラスが上がる今後は、日本のスピード競馬に無事に適応できるか?課題もありそうですが夢が大きく膨らむのも確かでしょう。
これで今季の2歳リーディングサイアー争いにおいて、勝ち上がり頭数で通算21頭、勝利数で23勝となり、勝ち上がり2位の熟練ハーツクライの14頭14勝、同3位の新星マインドユアビスケッツ13頭13勝に、獲得賞金額も加えて大きく水を開けました。2歳戦線は年末の高額賞金G1レースの結果次第で順位が大きく変動する可能性があり、最後まで予断は許されませんが、順調なら来年へ大きな楽しみを繋ぐことになりそうです。全体のリーディング順位が現在のまま低迷すると、来年は種付料がいったんダウンするでしょうが、さほど気にしなくて良いでしょう。2歳陣の充実ぶりから即座に反撃し復活してくる見通しは明るいように思えます。ディープインパクトは現2歳6頭がラストクロップ、ハーツクライも現役を引退した今後は、次代の苛烈を極める王座争奪戦が本格化します。世間は何かと姦(かしま)しいものですが“毀誉褒貶”はいっときの事、産駒バリエーション拡張など器そのものを大きくしつつあるエピファネイアの一念発起に注目したいと思っています。