2022.10.06

花も実もある充実期

水曜日の大井ナイター競馬は、砂上のスピード頂上決戦JBCスプリントの優先出走権を懸けたJpn2・東京盃が行われ、昨年のJBC王者レッドルゼルが連覇に向けて始動しました。昨年のドバイ帰り後に休み明けの東京盃を3着と取りこぼしているように、久々は動きひと息の馬です。今年も全く同じローテーションで、1頭だけ2キロ増の58キロを背負わされるハンデもあり、ファンは取捨に悩みに悩み、ルゼル単勝売上は低迷気味。締め切り直前にやっと1番人気に浮上して王者の面目を保ったところで、発走合図のファンファーレが鳴り響きます。

ゲートが開けば70秒程度の電撃戦。とはいえ、時間は短くとも中身はたっぷり詰まった充実のドラマが展開されました。発馬は五分に見えましたが、鞍上の川田将雅騎手はルゼル自身の行く気に任せて慌てず騒がず、落ち着いたのが後方2番手の位置取りでした。4コーナーに差し掛かっても、大外に持ち出した分だけ差はさほど縮まらず、ポジションは相変わらずのままです。しかし軽く促されただけでルゼルはグイッグイッと脚を伸ばし、前を行く馬たちを次々と呑み込んでいきます。強敵のテイエムサウスダンを1馬身突き放したところがゴールでした。ぶっちぎるような派手さはなかったものの、コンプリート(完全)な勝利でした。どうやら川田騎手が全幅の信頼を寄せて、行くも控えるもスパートするのもレースをルゼル自身に任せるほど、本物の強さを身につけたのでしょう。心身ともに円熟味を増して、どうやら花も実もある充実期に差し掛かったと言って良いでしょう。

こうなると少し気が早いのですが、セカンドライフのことまで想像してします。現役時代にダートスプリンターとして鳴らした馬が、種牡馬として大成功する事例が最近はやけに目立っています。昨年のドレフォンは、ブリーダーズスプリントの覇者でしたが、皐月賞馬ジオグリフを筆頭に芝でもダートでも一流馬を安定して輩出して新種牡馬チャンピオンに輝きました。評判が評判を呼んで、今年は種付け料が300万円から700万円へ倍以上に増額されたにも関わらず、門前市をなす大盛況で昨年を上回る198頭と交配されました。1000万円の大台も射程圏に入ってきましたね。今年の新種牡馬では、同じ社台スタリオンステーションに繋養されているマインドユアビスケッツが絶好調。この馬もドバイゴールデンシャヒーンを直線一気の追い込みで連覇したスプリンターです。ドバイ後に社台ファームの吉田照哉さんが所有権の半分を取得、種牡馬としての可能性を広げるために距離を延ばしてテストされ、1600mのG1・メトロポリタンH、1800mのG1・ホイットニーSがともに2着と一介のスプリンターにとどまらないことを証明しています。先週もJRAで3頭が勝ち上がるなど絶好調で、勝ち上がり12頭とダブルスコアの大差でフレッシュサイアーリーディングを独走しています。芝もダートも安定して走り、距離も問題なくオールマイティな印象です。父とは異なって先行力に秀でた産駒が多いのは、大きな強みでしょうね。この馬も来春の種付け料は現在の200万円から倍増級のアップが約束されています。

さらに日曜中山のスプリンターズSは、血統を見る限りダート重賞かと勘違いする面々が、上位を独占してビックリさせられました。勝ったジャンダルムの父キトゥンズジョイは、芝かダートかと言えば芝が飛び抜けていい馬ですが、ダート競馬の聖地アメリカで二度もリーディングサイアーに輝いています。ダートもそれなりに走らなければ、辿り着けない栄光です。2着ウインマーベルのアイルハヴアナザー、3着ナランフレグがゴールドアリュールとくると、もう完全なダート仕様という印象です。ルゼルの芝経験はデビュー戦の3着一度きりですが、こうした実例を見ると捨てたものでもありません。良い追い風が吹いてきました。総じて実にいろんな面で、可能性が一気に開花した東京盃だったと思います。