2022.09.29

新国王陛下のディープインパクト

週末のパリロンシャンに向けて、世界中の競馬好きの気分が凱旋門賞一色に染め上げられて行きます。フルゲート20頭に絞り込まれて、いよいよ臨戦ムードが高まります。オーストラリアの年度代表馬の勲章に輝いたベリーエレガントはフランスに転厩して追加登録料12万ユーロ≒1650万円を準備していましたが、残念にも最後の最後で除外となりました。ヨーロッパに移籍後の2走が不本意な内容で、想定外のレーティングしか貰えなかったのが原因のようです。出走優先順位が実績をベースとする獲得賞金を基本とする日本と異なり、いま現在の旬の勢いを重視する近走のレーティング順に決められる向こうのルールでは、1400mのウィンクスSから3200mのメルボルンCまで、オールマイティな才能でG1を11勝もしている“ミスター南十字星”も弾き飛ばされてしまいます。気の毒ですが、どちらのルールが良いと言い切れない中で、“郷に入れば郷に従え”ということでしょうか。失意のベリーエレガントは土曜日の牝馬限定G1、得意距離2800mのロライヤリュー賞に回るようですが、ウップンを爆発させて、格の違いを見せてくれるでしょう。

競馬はロンシャンだけじゃないよ、とドーバー海峡の対岸のイギリスから嬉しいニュースが飛び込んできました。崩御されたエリザベス2世女王の“競馬遺産”を誰が継承するのか、競馬好きをヤキモキさせた懸案事項に一つの方向性が示されました。故女王陛下の“競馬事業”は馬主として、生産者として、ロイヤルアスコット開催のオーナーとして、またなにより競馬繁栄の象徴であると同時に、唯一無二かけがえのないパトロンとして実に多岐に渡っています。そのすべてを継承することは誰にもできません。不可能でしょう。しかしとりあえず、女王の所有馬を新国王チャールズ3世陛下が引き継ぐことは決まったようです。良かったです。一安心です。

レーシングフォームの馬主欄に記載された「ザクイーン」が「ザキング」の呼称に変わります。その第1号が今夜のソールズベリー競馬場で行われる距離2000mのハンデ戦に登場します。エデュケーターという3歳馬でディープインパクトの娘さんですね。英1000ギニーと仏オークスの2つのクラシックレースを女王にプレゼントしたハイクレアの血を求めて、ハイクレアの曽孫であるディープインパクトとの交配のために繁殖牝馬ディプロマを日本に送り込んで、無事誕生したのがエデュケーターでした。名牝ハイクレアに遡るエデュケーターが、オーナーチェンジを告知することに感慨を覚えます。

母ディプロマはドバウィ、祖母はモンジューと欧州の重厚な血を重ねられ、ディープインパクト産駒にしては素軽さより長めの距離で底力を爆発させるタイプに成長しそうです。目下10戦10勝で世界最強に君臨するバーイードとは同じウィリアム・ハガス調教師の下で訓練に励むステーブルメイトです。ここまでの4戦2勝2着1回は、1600mと2000mでマークしています。これからの成長次第でしょうが、いずれは2400m級のチャンピオンディスタンスを守備範囲にするようになるのでしょう。楽しみです。さて今夜のソールズベリー、4頭立てと少し寂しくなりましたが、今のところブックメーカーオッズは1.8倍程度の1番人気に推されています。クイーンからキングへ、女王陛下を悼みお送りし国王陛下に祝意をお伝えする勝利が、新しい世の幕開けを飾ってくれるでしょう。