2022.09.14

神懸かる種牡馬たち

世界中を探し回っても12頭しかいないラストクロップ、そのうちデビューを済ませているアイルランドのオーギュストロダンと日本のオープンファイアの2頭とも早々に勝ち上がり、さらにロダンの方はG2レースに挑戦して一発で重賞制覇を実現しています。なかなかできることではありません。この後は2歳チャンピオン決定戦のG1デューハーストSに向かい、来年のダービーでは“不動の大本命”としてゲートインすることになりそうです。先日来、ディープインパクトの最終世代の“未完の物語”が、どこか“神懸かって来た”というお話をしています。

しかし世界は広いもので“神っている”のは、ディープインパクトだけのお話ではありません。3年前のディープに続いて、昨年夏に亡くなった“神種牡馬”ガリレオも、さまざまな分野で前人未到の領域へ踏み込みつつあります。先週末の「チャンピオンズデー」でも、世界中のホースマンを驚かせています。土曜はレパーズタウン競馬場、日曜はカラ競馬場を舞台に行われるチャンピオンデーは、馬産大国アイルランドの1年を締めくくる各カテゴリー毎の頂上戦として、個々のレースレベルは世界トップクラスの秀逸さを誇り、ファンの人気も絶大なカーニバルです。今年も例年通り、先だっての9月第2週末に開催されましたが、どのレースも見どころ満載で話題性テンコ盛り、大きな盛り上がりを見せました。初日のトップニュースは、前出G2チャンピオンズジュベナイルSに出走するディープインパクトのラストクロップ一番星オーギュストロダンの重賞制覇なるか?でした。しかし案ずるまでもなくポテンシャルの高さであっさり押し切り、ここは通過点でしかなかったようです。ブックメーカー各社から来年のダービー大本命に抜擢され、日本ファンの熱望するディープインパクト産駒による英ダービー制覇の夢に、また一歩近づきました。その他にも、お伝えしたいトピックスは盛りだくさんですが、2日目最大のハイライトは“東洋の皇帝”ディープインパクトの快挙に続いて、“欧州の王の中の王(キング・オブ・キングス)”ガリレオの前人未到の大記録が達成されるかに世界中から熱い眼差しが注がれました。

この日4つ組まれたG1レース“オオトリ”の大役を勤めたのが、伝統のG1愛セントレジャーがその一番でした。1.7倍の断然人気に支持されたガリレオ産駒キプリオスが主役を張ります。彼は今季は無敗で勝ち進み目下G1連勝中の“脅威の上がり馬”です。ライバルは過去に愛セントレジャー連覇の実績が光る前姉サーチフォーアソングでしょうか?いずれにしてもガリレオのプロフィールにブラックタイプが追記されることになりそうです。レースはスピード・スタミナ兼備の完成されたステイヤーに成長したキプリオスが、底力でハミッシュを寄せつけず圧倒、7馬身ちぎれた3着にサーチフォーアソングが差し込んで決着しました。これまで王者に君臨して来たストラディヴァリウス、トゥルーシャンを打ち破ってのG1・3連勝ですから、ヨーロッパの年度チャンピオンを決めるカルティエ賞最優秀ステイヤーは決まりですね。

キプリオスは名伯楽エイダン・オブライエン師が慌てずジックリ育て上げた遅咲きのステイヤーです。兄フリーイーグル(父ハイシャパラル)は日本からスピルバーグが参戦したロイヤルアスコットのG1プリンスオブウェールズSの勝ち馬、前述の全姉サーチフォーアソングは19年と20年の愛セントレジャーを連覇している実力派です。姉弟の父ガリレオにとっては、今回の愛セントレジャーがG1通算200勝目という破天荒な記録になりました。2位がオーストラリアで9回、ヨーロッパで5回のリーディングサイアーに輝いたデインヒルの168勝、3位はガリレオを世に送り出したサドラーズウェルズの132勝、競馬でいえば「大差」+「大差」ぶっちぎっているのですから、どんなに凄い記録か鳥肌とともに実感いただけると思います。もう“神種牡馬”というしか言葉がありません。それにしても、ガリレオ、ディープインパクトと同じ時代を生きられたことが、この歓びがしばらく持続することも含めて、実に誇らしく幸せなことに思えてなりません。